「ほう、貴方がかの有名な苗字名前くんですかな?」 「……ええ、まァ」 「お噂はかねがね」 「……どうも」 目の前に座るむっすりとした表情の彼は、今日こちらへ派遣されてきた祓魔師だ。 ある程度上の者であれば、耳にすることの出来る噂の幾つかは、彼に関するものである。 いや、噂は膨大な数であるから、彼の噂も幾つかある、というのが妥当だろう。 そんな彼、上一級祓魔師をこちらへ呼び寄せたのは他でもなく、奥村燐に対する策の一つだ。 そのためについた建前も、無駄にならなかったようで、現に彼は目の前に座っている。 多少不服そうではあるが、仕事に支障をきたさなければ、私には関係のないこと。 ただ少し気になるといえば、確か血の気が多いとか喧嘩っ早いとか短気だとか、そういった類の忠告を受けたことだ。 顔についた真新しい数箇所の傷と、整えられた眉に短い黒髪。なるほど、見るからにやんちゃそうな男である。 その彼はぐるりと辺りを見回し、それが間違いだったというように首を振った。視線をやる場所に困ったのかこちら目を向け、げんなりとした表情を見せる。 人の顔を見てその表情とは失礼する。 その思いが伝わってしまったのか、彼はふうと息を吐きだし、諦めたように眉尻を下げて、ゆるりと笑顔を作り出す。 「……ピンク、多すぎじゃないすか?」 い、いったい何が不満だというのだ! ← |