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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -

「んー、仏教徒さんが何人かいるから止めようかと思ったんだけど、やっぱり仏教の基礎、やりたいと思います」

先生はそうおっしゃって、ある程度の情報を黒板に書く。基礎、と言うのは本当のようで、書かれる情報は幼い頃に教えられたことも混じっていた。

「仏教の始まりは皆も知ってる通り、ゴータマ・シッダールタなわけだけども」

とは言えウチの仏教は他と違って祓魔に特化した教えばかりだったものだから、先生の話す内容も少しばかり新鮮だった。

「産まれてすぐ七歩歩いて右で上、左で下を指差し、『天上天下唯我独尊』なんて言ったのは特に有名なエピソードだね」

へえ、と珍しく遅刻もせず寝てもいない奥村くんが感嘆の声を上げる。後ろに座る志摩さんも、声は小さいけれど同様の反応だった。
これ、教わったはずやのになあ。なんて思いながら、先生の話に耳を傾けた。
聞こえてくるのは奈良の大仏の名前だとか、コーヒーに入れるミルクのスジャータの話だとか、月のウサギの話だとか。挙げ句には月の引力と潮の満ち干きまでを語り出すものだから、不覚にもふっと笑ってしまった。
先生の口から出る雑学の数々は、たまに宗教じゃないところまで発展するから、面白い。
ちゃんと起動修正はされたけれど、その知識量は驚愕するほどに多かった。
すごいなあ、素直に感心する。雑学という授業内容にぴったりの先生だと、今更に納得していた。
集中力を切らして、後ろをちらりと見てみれば、うつらうつらと舟を漕ぐ志摩さんの姿。今度は隣を盗み見る。指の腹で音を立てないように、リズム良く机を叩く坊の姿。
足を目一杯に伸ばしてみると、ぐっと喉の奥が膨らんだ気がして、そのまま緩く、少量の空気を吐き出した。視界が滲む。
ばつが悪くなって、慌てて先生に視線を投げた。
あ、先生と目が合うた。