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一晩でその家の住人がすっかり消えていなくなってしまった。
そんな家、村がもういくつもある。
鬼殺隊に届けられた情報は何とも不可思議なものであった。
争いの痕跡は一切ない。本当に忽然と消えてしまったようだと、その村の住人は気味悪そうに答えた。
調査に向かわせた隊員たちも、鬼の気配はなかったと報告していたが、そのうちの数人が戻って来ることはなかった。彼らの連れていた鎹烏さえも。
あまりに不可解であったために、柱の一人であり、水の呼吸の使い手、冨岡義勇が調査に向かったが、結果は先の報告と似たり寄ったりのものでしかなく、人が村から忽然と姿を消すという摩訶不思議な事案は、ゆっくりとだが確実に数を増やしていった。
これがもし本当に鬼の仕業なのだとしたら、と言い出したのは誰であっただろうか。そうだとすれば、血鬼術の類とみてまず間違いないだろうと誰かも続けた。今まで消えてしまった人間すべてをひとりの鬼が喰っているのならば、それはもう、十二鬼月に匹敵するのではないか、とも。
行方不明者の数は、もう数え切れぬほどになっていた。
幾度となく隊士達が調査に赴いているというのに、全く何の成果も得られぬままに月日は過ぎ、もしや鬼の仕業ではなく全く別の要因があるのではと囁かれ始めたころであった。
一匹の烏が、産屋敷に落ちた。
濃い藤の香りを纏ったその烏は泣くこともできないほど衰弱していたが、それは紛れもなく、調査に赴いたまま行方知れずとなった隊士についていた鎹烏であった。何かを訴えんとしたか、嘴を大きく開いては閉じ、を繰り返し、最期はげえげえと何度もえずき、胃液を吐き戻しながら死んでいった。
その死骸を調べたのは、毒に造詣の深い、蟲柱の胡蝶しのぶであったが、彼女もまた、烏に何かしらの薬が使われたことはわかっても、そこから鬼の気配を感じ取ることはできなかった。ただ、強く纏わりついていた藤の花の香りが、鬼と関連しているような気がしてならないとぼやき、それに他の柱達も同意していた。根拠のない勘ではあった。しかし、勘とはその人物が今まで経験してきたものの蓄積がもたらすものである。全ての柱達がこれは鬼の仕業であると確信していた。

それから更に時が経ち、柱達の直感も空しく調査の規模が縮小しようという動きが出始めた頃だった。
別の任に就いていた隊士から、失踪事件の首謀者と思われる鬼と遭遇したとの報告と、救援の要請がもたらされた。
鬼殺隊は俄かに勇み立った。今まで何もわからなかった事件の端緒をつかむことができたのだから。
柱二名と甲乙の階級の隊士、そして評判の良い隠が火急に呼集された。相手は十二鬼月ではないが、素人目にもそれに匹敵するように思われると報せの中にあったためだ。
相手の鬼が使用する血鬼術にやられた者が、毒を受けたような症状に似ているとのことから、柱の一人は蟲柱の胡蝶しのぶが、もう一人は珍しく自らが志願した、水柱の冨岡義勇が派遣されることとなった。
柱を抜いても隊士が十を超す大所帯、否が応にも大事であることが伺える。
そも、この救援を出したのが、もともと七人の班として組まれ、特別な任務を請け負い行動していたのである。七人でかかってもなお斃せぬ鬼。であれば、多少過剰な戦力でも致し方なしという事であろう。



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