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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -

気が付けば、私は赤い泉の中に座っていた。
一体何が起きたのか、今までのことはこれっぽっちも覚えていなかったけれど、腕の中で眠っている親友や疲れ果てて眠る仲間たちを見て、私もその温かな空気に浸かり、眠りの舟へ乗り込んだ。
泉の中だからか、全身すっかりと濡れてしまっていたけれど、親友のおかげで寒くはないし、開かれた木々の隙間から差し込む陽射しも、暗い世界にぬくもりをくれていた。そもそも、何処から湧き出る水なのか、泉の水自体冷たくはなかった。
きらきらと陽射しに照らされて舞う砂や、輝く水面や泉の中に落ちてしまっている金属が、煌めき輝いて美しく、私はまどろみながらも親友を揺すりながら声をかける。この美しい光景を、彼女と共有したかった。
ねえ、起きて。すごくすごくきれいだから。
森の中の赤い泉という珍しいもののために、私たちははるばるやって来たのだろう。ここに着くまでの道のりは厳しかったに違いない。でなければこんなところで、みんな眠りにつくはずがなかった。
そんなにすごいものを、今、私一人が独占しているのがとても勿体なく思えた。けれど、仲間は皆眠ってしまっている。私だって、もう目を開けていられないほどに眠たい。幸い、泉も空気も冷たくはなく、風邪をひくことはないだろうから、また目を覚ました時に、仲間と一緒にこの素晴らしい景色を味わおう。睡魔はもう私のすぐそばに居た。その囁きに抵抗するのをやめ、睡魔の漕ぐ舟に体を預ける。
ばしゃん、ばしゃんとずっと遠くで、水の弾ける音がした。ような気が、した。



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