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「#幼馴染」のBL小説を読む
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「教義に反しねえの、それ」

朗々と響いたのは若い男の声であった。
厳かに音を反響させて響くように設計された、石造りの建造物の中で、声をかけられた男は跳ねるようにその場から飛び退く。
黒く長い衣服に身を包んだ男性の、口元から下はぬらぬらと、差し込む色とりどりの月光を反射している。
花を模したステンドグラスから透けて届く月光が、巨大な十字架を照らしている。
その十字を掲げる台に、青年は片膝を立てて座っていた。

「せっかく認められたキリスト教なのにさ。その神父が鬼でしたぁ、なんてのは、酷いスキャンダルじゃねえかなあ」

十字架の影がかかる場所に、手足が不自然に曲がった女が一人転がっている。その腹からは内臓が引き摺り出され、臓器の数がいくつか足りない。
その女と十字架の根元の青年は、同じ黒い洋服を着ている。

「わ、私は、なにを」
「今更、演技したって遅えんだよ。地下室もちゃんと調べてある。何人食ったんだ。敬虔なクリスチャンを歯牙にかけて。神父は何年目だよ、冒涜者」

月光を背にした青年は、にんまりと笑う。その手には、薄い青色をした刀身の刀が握られている。
神父は呻る。困惑か、怒りか。込められた感情は定かではないが、青年は台からはみ出している脚と刀をぶらりぶらりと揺らすだけだった。

「人間って言うほど美味しかねえだろう。特に生じゃ味もねえ。血の味だろ、それが良いのか? 生臭くないか? 筋ばっててさ、人の体の中じゃ、尻の部分が一番柔いって聞いたけど、内臓から食ってんだもんなァ、野生動物みたいだ。ほら、動物も柔いとこから食うだろう。肉じゃなくてさ……ああ、レバーはカロリーが高いんだっけ」

ニコニコと、青年は笑顔で喋っている。

「人間は雑食だ。多分肉の味もそんなに美味くない。草食の動物の方が美味いだろ、ネコよりはウサギの方が美味いのは誰でもわかるさ。それでも食うってんだから、ほら、調理でもなんでもすりゃ良いだろう。レクター博士みたいに……レクター博士、通じねえか、そうだよな」

照れて誤魔化すかのように青年は頭を掻く。

「教会の、神の御前でよくもまあ、同族喰いなんかできたもんだ。流石にイエスもお前は地獄を指差すぞ」

すとんと軽い音を立てて、青年は台から降りる。薄青の刀の峰で肩を叩きながら、十字架の影の中を歩く。
同僚らしき女には目もくれず、ひょいとその死体を飛び越えて、神父のもとへと歩いて行った。

「俺は別に教徒じゃないから、今から殺しを教会でするって言っても気は咎めないけど。お前はどうなの、神父様」

青い切っ先が神父の鼻頭に突き付けられた。
その刀は、転がる女が使用していたものであると、ここに来てようやく神父は気付く。
いつの間に、と目を見開いた。女を殺して、食っていた。ずっと近くにいたはずであるのに、刀を取られたはずであるのに、神父は一度たりとも、目の前の闖入者に気付かなかったのである。

「これ、日輪刀って言うんだぜ。動くんじゃねえぞ。今からその首を刎ねて、お前をお前の神のもとに送ってやる」

刀が神父の首に当てられる。ひゅ、と風を切る音が、静かな教会内に響いた。
神父が抵抗らしい抵抗をすることはなかった。なにを思ったか、安らかな顔ですらある。青年はそこで、表情を変えた。

「God bless you」



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