×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -

誰かが泣いている。助けなければ。
どうした、声をかける。どうしたの。
泣いている子供。泣き止ませなければ。
怪我をしているなら治療を。
喧嘩をしたのなら仲裁を。
先生、呼ぶ声がする。先生。応える。泣いている子供がいる。泣いている人がいる。大丈夫、大丈夫ですからね。私が居るから。もう大丈夫。安心してね、安心してください。
声が重なる。子供の姿が重なる。
助けなければならないもの。手を差し伸べなければならないもの。
これが私の仕事だからだ。私達の仕事だからだ。仕事でなくても、私は手を差し伸べてしまうけれど。
お人好しだと誰かが言った。
偽善者だと誰かは罵る。
構うものか。構うものですか。だって私は先生なのだ。皆の先に生まれたもの。先頭に立ち、導くもの。手本であり、見習うべきもの。その役をこなすだけのこと。私はそのために生まれてきた。私はそうなろうと頑張ってきたのだ。運命だった。それしかなかった。敷かれたレールだ。切り開いた未来であり、憧れた世界。
どれも私。どれもが糧。すべてが私だ。すべてが私。私。
泣いている。
子どもが。
手を差し伸べて、笑顔を見せる。
もう大丈夫。私が居るよ。
そういう物語があった。混沌とした力と、その力を悪用する人が溢れる世界で、平和の象徴として立つ人が居た。その人の決め台詞がある。

「私が来た!」

それはキャラクターだったけれど。その人のようになりたかった。その一言で、多くの人を安心させた。湧き上がらせた。奮い立たせた。そういう人になりたかった。
だから、私達は言い続けた。

例え、

「もう大丈夫、よく頑張りましたね」

その人が、その子が、助からなかったとしても。
助かる気が、なかったとしても。



prev next
back