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「#幼馴染」のBL小説を読む
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- ナノ -

金の呼吸を使う人間ってのは、要するにバケモノだ。
身体能力が高いとか、討伐数が多いとかいう次元じゃない。
金の呼吸を使える時点で、柱を超える未来が確定しているのだ。
全集中の呼吸の型は、人それぞれに相性がある。様々な種類の呼吸があるのがその証しだ。
そして、例外はあれど、全集中の呼吸を使用できる事が、ある種入隊の前提条件であること、呼吸を会得できずに隊士になれない者が居ることを踏まえれば、自分に合った呼吸を探す事が如何に重要であるかは誰にで理解できることだろう。
金の呼吸は、基本の五つの呼吸からの派生として、数多くある呼吸の一つとして数えられているが、それはあくまで名前だけだ。
十五ある型のうち、居合の壱は雷の、抜刀の壱は水、伍は風、無手の弐は岩、という風に、金の呼吸は他の呼吸を基礎に型が作り上げられている。
これはつまり、金の呼吸を使用する者は、他の呼吸も使用できるという事になるのだ。
どの呼吸にも適性がある。そんな才能の塊が、努力と研鑽を要求し続ける金の呼吸なんてものを身に付けるのだ。柱を超える未来が確約されているに決まっている。

「抜刀、参の型」

踏み込みの音はたった一度。その音を聞いた時にはもう、相手を三度の突きが襲っている。金の呼吸の抜刀参の型は、世に聞く三段突きである。
この目で、耳で実物を前にしてすら、音は一度、剣戟も一度しかわからない。これでまだ使い手達は、未熟であると断じるのだから恐れ入る。
本来この技は、同時に三度放たれなければならないのだという。そんな事出来るわけがないのだが、それが理想であり完成形だと言われて仕舞えば反論もできない。同時に三度。
それができれば、防御不可能な魔剣の類になるのだと、そう教えられた事がある。
金の呼吸はそんな技の集合体だ。
これをバケモノと呼ばずして、一体何と呼べば良いというのか。
舌打ちが聞こえる。次いで、硬い、そういう呟きを耳が拾った。

「同じ場所を穿ったんだぞ!」

刺突で首を落とそうとしてはいなかったのだろうが、それでも大きな怪我は期待していたのだろう。悔しさの滲む声だった。
三段突きは基本的に、その技量で相手を圧倒し、動きを止めるために使用すると本人は言っているらしい。鬼が相手でなければ、必殺に成るとはその兄弟子も説明してくれはしたが。

「鬼クソ野郎、ただじゃおかないからな、ちくしょう」

それが情けない声を上げた。硬い皮膚を突き破ることができないのだ。鬼の首を取ることも難しいだろう。それでも日輪刀は手離さない。
血まみれなのは本人の血か、近くを転がる隊士らの血か。鬼の血でないことだけは明らかだった。

「抜刀、肆の型!」

強く踏み込み飛翔するかの如く斬り上げ、その勢いを生かして頂点から大きく斬り降ろす。頭を狙った力技。小柄な身体からは想像もつかないような重い二撃。それでも鬼の方が硬いのか、普通なら脳天から真っ二つに割られるはずのその攻撃も、鬼の身体の表面を滑り、ただの袈裟斬りに成り下がった。鬼の出血は多くない。よほど硬い鬼なのだ。なるほど、柱が呼ばれるわけである。

「こっちは刀しかないんだから、斬られろよ……」

呻くように、それは呟く。
しかし、意を決したようにそれは一度大きく深呼吸を行い、ギッと鬼を睨んだ。

「……抜刀式、奥義」

ぎいいん、と、そいつの刀が鳴いた。



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