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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -

金の呼吸は、会得が難しいとされている。
居合、抜刀、無手の三種から成り、各種五つの型が存在する。
三種それぞれで刀の扱いは異なり、全く別の戦闘方であるが故に、極める事も困難になり、使い手も少ない。当然の帰結として育手ももちろん少なく、であるならば別の呼吸を習得した方が良い、ということになる。
相性の問題もある。もちろん全集中の呼吸というものは努力のみで習得が可能だ。しかし、結局は才能や向き不向きに左右される。型は、なぞるだけでは意味がないのだ。
そして、金の呼吸は特に才能が必要であった。
そんな狭き門と難易度を誇る金の呼吸だが、これを習得できれは、如何様な場面でも使用できる強みがあった。歴代の習得者の、鬼の討伐数は群を抜く。けれど、過去のどの時代においても金の呼吸を使用する柱は鬼殺隊に現れた事実はない。機会に恵まれなかったか、はたまた別の理由があるのか。それはもはや過去であるために確かめようもないが、金の呼吸の凄まじさは、現在の継承者である隊士と、合同で討伐任務に当たれば嫌という程思い知らされる。

「居合、壱の型」

ちん、と納刀の音が聞こえた事で、漸く何が起こったかを知る。相対した鬼の首が背後にあった竹と共に音も無くずれ、ごとん、と落ちる。ばさばさと竹が倒れる音が響き渡り、鬼の身体は崩れて消え行く。
金の呼吸は金と名が付くように、何も知らなければ、炎や恋の呼吸と同じく華やかな印象を受ける。さぞ煌びやかな剣術であろうと誰もが空想するだろう。金とは輝き煌めく成功の象徴であり、宝の象徴であるが故だ。けれど、実際はそうではない。
使い手が口を酸っぱくして言っている。金はお金や金銀財宝の金ではなく、金属の金であるのだ、と。自分だけが使用する呼吸であったのなら、鋼の呼吸にしたのにと言って憚らない。
そして、その言を肯定するように、その人の刀は金色に輝いてはおらず、あくまで無骨な地金の色だ。金の呼吸を使用する隊士達の日輪刀は、色変わりの刀と言われているにも関わらず、色を変えぬことで有名であった。
玉鋼の美しい残影が鬼の血を吸い、そこにあった筈の剣戟を魅せつける。それこそが金の呼吸の真骨頂。どこまでも無骨で真摯的な剣術が、その神業を以って美しく輝く剣戟となるのである。
これは、金の呼吸を知る己の育手の言だ。
ばさばさと鎹烏が降り立つ音を聞き、その人は左腕をすいと胸元まで上げる。
その人は、左手に常に革手袋を嵌めていた。何のためなのかと思っていたが、鎹烏のためだったのか。確かに烏の爪は食い込むと痛い。準備がいい。

「任務完了」
「了解シタ。現在別ノ任務ハ無イ為、支持ガ有ルマデ自由行動トスル」
「こちらも了解」

事務的なやりとりを終え、その人の腕から烏が飛び立つ。その人がこちらを向き、にこりと笑った。

「無事っすね! 良かった」
「貴方と組むと、任務がいつも早く終わりますね」
「……お世辞すか?」
「事実ですが」

居合というのは、そもそもが抜刀術と言われるものである。抜刀術を座った状態より行う流派が多かったことから居合抜刀術と呼ばれ、最終的に居合術と短縮される形となった。
その居合術とは、日本刀を鞘に収めた状態で帯刀し、鞘から抜き放つ動作で一撃を加えるか、相手の攻撃を受け流し、二の太刀で相手にとどめを刺す形、技術を中心に構成された武術である。
そして、自分は雷の呼吸を使用する隊士である。雷の呼吸は、その呼吸による力を脚に集中させ、雷光の如き速さの斬撃を繰り出すことを得意とする剣技である。
どちらも素早い動きに長けている。
つまり、金の呼吸の居合術を使用するかの人と、雷の呼吸を使う自分が組むのだから、当然任務時間は短くなるのである。

「藤の花の家紋の家に戻ったあとはどうなさるんですか」
「何も決めてないです。少し滞在させてもらおうかと」
「ああ、良いんじゃないですか。あまりきちんとした食事なさらないでしょう、貴方。だから背が低いんですよ」
「余計なお世話すよ!」

きっと眦を吊り上げてこちらを見るその姿が、何とも人間臭い仕草で笑ってしまう。金の呼吸を使用する人物は、総じて人外のように扱われがちなのだという。実際、あの剣術を使用できるというだけで、人であることを今でも少し疑っている。
金の呼吸は、人外じみた動きをするわけではない。あくまでも無骨な武術である。剣術、居合術、無手。全てを完璧にこなし、禁欲的なまでに研鑽を積む事を要求する。全てを習得したと言っても、あくまで形になっただけ。永遠に修行が続くのだそうである。そういう武道の世界の一つでもある。
鬼を斬ることも修行の一環であるかのように。
磨けば輝く。まさしく金鉱石の如くである。

ばさり、頭上で聞き慣れた翼の音がする。先程見送った烏ではなく、自分のものだ。

「救援要請デス! 此方ヨリ北北東! 鬼トノ戦闘ニヨリ隊士ノ損耗ガ多ク確認サレテイマス! 両名ハ直チニ向カッテ下サイ!」

その人の方へ視線をやれば、向こうも同じようにこちらを見る。頷き合った。



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