×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -

我が流派の話をしよう。流派と言うよりは一門と言うべきか。
我ら一門、扱う全集中の呼吸は金の呼吸という。
お金の金ではなく金属の金である。間違えないように。
金だから岩の呼吸の派生かなと、教わる前は単純にそう思っていた。五行や四大元素辺りから何となくそう思っただけなんだが、良い線いってると思うだろう。全然違った。教われば教わるほど、これはイレギュラーなものだと感じた。そもそも原作にない呼吸である。イレギュラーは当たり前だし、もちろん予備知識もない。当然である。原作にないからな。水とか雷とかなら知識だけはあるのに。つまり、何も知らないのと同じということである。転生チートなんてなかった。畜生なんでだ。普通こういうのは原作キャラと同門になったりするものじゃないのか。初めから知り合いとかでもないので何を言っても全く意味はないんだけども。
ともかく。まずは、呼吸の概要から教わった。
曰く、金の呼吸は大きく分けて三つある。
初めから詰んだ。三つあるってなんだ。馬鹿なのか。理解ができない。だが、理解はできなくとも受け入れなければ未来が無い。未来がないんだ。育手の下に居る時点でお察しだと思うが。息をしないと死ぬんだぞ。ということで無理やり飲み込むことにした。
三つあるという金の呼吸は、そこから細分化して、それぞれに五つの型が存在するのだそうだ。つまり、金の呼吸は全部で十五の型がある。主人公の扱う水の呼吸の型は十だったので、基本どの呼吸も型は十あると思っていい。あ、でも雷は六つだっけ。原作でも全部の呼吸の全型は出てないからこの前提も間違っているかもしれないが、多分そうだろうという事にしておく。で、自分が師事している呼吸は基本の十に五つ足されているわけである。
全集中の呼吸は所謂古武術的呼吸法である。息をするんだよ。息を。特殊な呼吸法ではあるが、主人公一味の猪君は育手の下で修行してないマジの独学で体得しているので、教えられればほぼ誰でもできると言って良い、と思う。あれだな、腹式呼吸みたいな……違うか。ともかく、吸って吸って肺を大きくしていって、取り込む酸素量を増やす事で身体をもっと動けるようにしようって、脳筋みたいな考えのもとにできている。フォアグラの肺版みたいなものだ。例えが下手くそなのは自覚しているので突っ込まないでくれると嬉しい。
で、その全集中の呼吸の型、種類は剣道の流派というところ。才能はなくても努力して反復練習さえすれば動きを真似ることができる。と、同時に、特殊な呼吸法を使用する事で得られる身体能力を前提とする剣術でもあるから、死ぬ気で努力しても身に付かない可能性が、ある。
頭おかしいんじゃないのか。
一つの型しかできなかったタンポポくんや、その逆の兄弟子、師事した人物の呼吸が合わずに新しい呼吸を開拓する少女が原作には存在したし、主人公は確か二年くらいかけて呼吸を体得していた。
剣道にも掠らず、剣術に縁がほとんどなかった現代日本人が、死にものぐるいで型を覚えても二、三年はあっという間なのが目に見えていた。しかもそれが型をなぞるだけの剣道になる可能性があるのだ。才能がなければ悲惨な未来しかない。幸いにも自分には金の呼吸の才能があったために、修行に費やした年月は無駄にはならなかったから良かったけれども。
因みに金の呼吸に型名は無い。これも幸いである。覚えることが少しでも少ないのに越したことはないからな。
結局、全てを身につけるのに約五年、そして仕上げるのに一年ほどかけた。
普通は一年ほどで育手の元を卒業できるらしいんだが、物覚えが悪いというなかれ。思い出してくれ。金の呼吸は三種ある。
一つ。抜刀。これは抜刀術ではなく、抜き身という意味で使われている。多分これが基本の基本だ。呼吸を知る前、この世界が鬼滅の刃と知る前から、師には剣道を一応教わってはいたけれど、全く関係なかった。これは実用的な殺しの技だ。身に付けたくない、こんな血なまぐさい剣。でも身に付けなければ自分が死ぬので狂ったように刀を振った。腕に筋肉がついた。
一つ。居合。多分雷の呼吸が基礎にある。躓いた。刀に慣れたとかいう次元の話ではなかった。素早く抜き、納刀する。無理。抜刀の方でなんとか刀を抜き、振り回せるようになったが、素早く抜けても、流れるように素早く鞘に入れられない。それができるようになっても、今度は物を斬ることができない。鞘に入れることに集中しすぎるからだ。難し過ぎた。それでも頑張った。これを習得するのに一番時間をかけた。
一つ。無手。つまり体術である。日輪刀が手元にない、または奪われたり折れたりした時の最後の手段。鬼と素手で渡りあえっていうのか、殺す気か。初めて教えられた時は本気でそう思ったし、今もそう思う時がある。因みに逃走しようとする鬼を想定した拘束術もある。純粋な筋力が必要になるため、筋トレが欠かせない。これは多分岩の呼吸がベースになっていると思われる。生傷の絶えない修行だった。
ただ、この技だけで鬼を倒すことは不可能なので、撤退する時か朝日がすぐそこまで迫っている時かの二択でしか使えない。波紋とか使えたら良かったのになあと思う。あれも一種の呼吸法だからな。
全集中の呼吸は酸素量を増やしてエネルギーを得るための特殊な呼吸法だが、波紋法はたしか、血液の流れをコントロールして血液に波紋を起こし、太陽光と同じ生命エネルギーを発生させるとかいう呼吸法である。さらに身体能力も向上する。太陽光を出せるようなもんだぞ。鬼も倒せると思う。出せないもんかな、波紋。
話を戻すが、以上三種各五つ、全十五型を全て身体に叩き込み、最終選別に挑んだ時、自分が最年長だったのは少しばかりショックだった。そうだな呼吸をなんとか会得したって言えるようになるまでに約六年かかってるものな。流石に十違う子はいなかったと思うが、それでも一回りくらい身体が小さい子が一緒に居たのは相当な衝撃だった。ち、ちいさい……!
主人公達は何歳で選別に通ったんだっけ。原作で彼らは幾つだっただろう。最終選別時はすでにその年齢を超えている気がする。自分の生まれた年がわからないので、正式な年齢もわからないのだ。
最終選別で一番大変だったのは飲食に関する事で、鬼や寝床に関しては特に問題はなかった。あの山にクマとか居るなんて話も聞かなかったから安心して寝ていたが、今同じことをしろと言われてもできない。あれは極限状態だったからできたんだ。好き好んで誰も、絶対安心とは言い切れず、装備の乏しい中でビバークはしない。
ともあれ、最終選別を終え、はれて鬼殺隊士になった自分は、現在乙の階級を戴き、任務を遂行しているのであった。

ついでだから我が師と兄弟弟子の話もしようか。
兄弟弟子の総数は、兄弟子が一人、弟妹弟子が一人ずつ。自分を含めて生きている師の弟子は四人だ。
自分以外の兄弟弟子は、皆総じて呼吸が合わないとか才能がないとかで、免許皆伝までには至っていない。呼吸に免許皆伝の言葉を使うかわからないが、金の呼吸を完全に修得したのは自分だけだ。一応、兄弟弟子も型をなぞることはできるが。
水の呼吸や炎の呼吸のように、金の呼吸には幻覚じみたエフェクトも無いので、どう才能を判断しているのかはわからないけれども、多分エフェクトがあったらそれが出てないということなんだろう。多分。
つまり兄弟弟子は、才能なしと判定を受け、それからは各々好き勝手に練習や訓練をしてもらっていた。どういうことだ。自分だけが約六年必死に金の呼吸の修行していたのである。
自分以外の金の呼吸の使い手に逢いたい。
我が師は金の呼吸の使い手である。しかし、元は岩の呼吸を教わり、使用していたそうなので、どちらも指導できる優秀な育手である。師が金の呼吸を作ったのではないらしいので、二人の育手に師事したことになる。
つまり、探せば自分以外の金の呼吸の使い手がいるのだ。鬼殺隊に入ってからも自分以外に聞いたことがないのだけれど。特殊な呼吸らしいから、居たらすぐ見つかるはずなんだけどなあ。
さておき。
一番下の妹弟子は、どの呼吸も体に合わなかった可哀想な子だった。
育手の元をたらい回しにされ、匙を投げられていたのを、我が師が引き取ってきた。様々な呼吸を中途半端に覚えてしまっていて、師も彼女の育成には苦労していたのを思い出す。
育成ゲームで言えば他人が考えなしに育てたキャラクターのセーブデータをそのまま使い、軌道修正しようとする感じか。あまりにも苦行だな。生きてる人間にそんな例えを持ち出す自分に引いたし、軽く軽蔑したわ。可愛い妹弟子をなんだと思っているんだ。でも何となくわかりやすい例えじゃなかった? わかりやすかったと思うのでそれで許してほしい。後で自分で自分をいじめ抜いておくので。
そんな彼女へは、オリジナルの呼吸を作った方が良いのではないかと、兄弟弟子とともにアドバイスをしたけれど、彼女は創作する才能も無かった。悲しい。エフェクトは出ないが全集中の呼吸は何とかできるので、覚えている呼吸を仕上げる事に重点を置いた修行をすることになった。
鬼殺隊に入隊したのは聞いたので、何とかやっていけているようだ。
弟弟子は自分より年上だったはずだ。
岩の呼吸も、金の呼吸もできず、仕方なしに師から普通の武術を教えてもらっていた。
古武術の達人でもある師に教わり、全集中や波紋ではない方の呼吸法を体得し、それを応用して独自の呼吸を開発していた。驚いた。そんな才能があったのかと。自分はその時、まだ金の呼吸の会得に躍起になっていた時期だったため、それはそれは悔しかった。弟弟子なのに。ただ、その呼吸が如何せん阿呆丸出しのネーミングであって、何とかならないものかと師や兄弟子はいつもぼやいていた。でもその名前で弟弟子がしっくりきてしまったのだからもう仕様がない。同じ任務に当たりたくはないなと思うし、同じ任務に当たりませんようにと祈るだけである。他人のふりはできないので。
兄弟子は師の血縁であり、四人の中で最年長でもあった。
兄弟子は呼吸法を会得することができず、やむなく隊士になる事を諦めて隠になったと聞いている。それでも呼吸の型を、弟妹弟子とは違って、完璧に、なぞることはできるのだ。全集中の呼吸なしで、である。
全集中の呼吸の型は、全集中の呼吸ができることを前提とした剣術であることは前に言った通りであるので、身体能力の高さが化け物級ということである。
もちろん四人の中では一番の剣術の達人であり、そして誰よりも強い男であった。
因みに、とても寡黙な男である。喋られないのかと妹弟子に心配されていたほどだ。
そんな個性が強すぎる兄弟弟子達を引き取り纏めて、立派に育て上げた育手でもある我が師ももちろん個性的で、その美しいスキンヘッドには入れ墨が入っており、一見するとヤクザか何かかと見紛う巨躯の男であった。鱗滝氏や桑島氏のようなお年を召された小柄な体躯ではない。完全に現役のプロレスラーか何かである。
そういえば岩の呼吸を使用する岩柱の方も体躯が良い描写だったな。岩の呼吸一門はもしやそういう流派なのか、と勘繰った事も一度や二度ではない。兄弟弟子の細さ、しなやかさに勇気付けられすらしていた。兄弟弟子に、ドラゴンボール並みのムキムキは居ない。安心した。
そもそも、自分たちは金の呼吸の一門だとか、そういうところまで頭が回らなかったし、そこまで筋肉がつくと脇が閉まらなくなり、金の呼吸が使えなくなるので、筋肉量だって調整されていた。恐れるほどのことではなかったのである。

さてそんな我々であるが、一つ共通点がある。親を知らず、名も知らず、生まれも育ちもわからないという、所謂孤児であること、である。
鬼滅の刃お決まりの、鬼に親を殺されて、が無いのである。親が居ないので。
似たような境遇といえばあの雷のタンポポくんであろうか。だが、彼の場合は名があったし、自我を持って生きていた。虐められはしていたが。
そんなものが、我々四人にはなかった。気付けば目を開き、そこに在ったと誰もが言った。
親の名を知らぬ、顔を知らぬ。ただ生きた。
妹弟子は悲惨な人生を送っていたようである。兄弟子は感情を殺されて生きてきたようである。弟弟子はよくわからないが、ただ前を見て走っている。自分も気付いた時には雨泥糞にまみれ、土や木を齧っていたように思う。師に拾われなければ死んでいた。我ら弟子達は皆一様に同じであった。
師、先生と慕い、彼の期待に応えんと鬼殺隊に入った我々である。四人共に師の死に目に間に合ったのは僥倖であろう。
師は鬼にやられたわけではなかった。単純に病に伏した。やはり大正、病名もよくわからないまま死ぬのだなあと感じた次第である。
兄弟弟子は今日も元気にどこかで鬼の首を刎ねているのであろう。
もし見かけたらよろしく。
どうか優しくしてやってくれ。



prev next
back