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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -

よくある話だ。
死んだと思ったら生きていた、とか。死んだと思ったら赤ん坊だった、とか。唐突に前世を思い出した、とか。
人の手によって作られる物語には。
前世占いというものだってあるし、実際に前世があると主張する人もいる。事実は小説よりも奇なりと言ったところか。
最近流行りのファンタジーなら、異世界への転生なんてものもある。やたらとタイトルの長いウェブ小説は、アマチュア作家発で無料公開が基本だし、若年層に向けて販売されているものは安価であるため手が出しやすい。何よりも、俄然読みやすい。コミカライズされたものはその最たるものだ。本腰を入れて読むのではなく、暇つぶしにもってこいのライトさが売りだ。
そんなよくある話の主人公達の如く、自分もその現象の当事者であった。しかしながら、純文学でもなければライトノベルでもない。明け透けに言えば二次創作だ。生前知っていた作品の中に、自分は居る。

鬼滅の刃。
大正時代の辺りが舞台の、冒険活劇と銘打たれた少年漫画。人を喰らう異質な存在の鬼と、それを狩る鬼殺隊の対立の中で、主人公が鬼にされてしまった妹を元に戻そうとする物語。キャッチコピーはなんだったか、優しさとかいう言葉があった。そんな主人公が生きる世界は全く優しくない。人がぽこじゃか死んでいく。主要人物だろうが御構い無しだ。それが世界のシビアさを補強する。
そういう類の物語はいくつか知っているし、作者がそう描くのだから、読者は阿鼻叫喚するしかない。手の届かない、どうにもできない世界である。仕方がないといえば仕方がない。そういう世界として生み出されたのだから。
その優しくない世界に自分がいる時点でお察しのことと思うが、冒頭に述べた一言の例に漏れず。
我が人生は、実によくある話なのだった。

「抜刀、参の型」

相対していた人物の体から大きく血が噴き出す。所謂三段突きというものだ。自分は天然理心流の継承者ではないけれど、基本的には同じものだと思われる。うまく説明できないので簡単にいうが、全集中の呼吸を行う事で到達する速度で踏み込み、頭、喉、鳩尾を突く、のである。沖田総司は全集中の呼吸を行わずしてこれをやったのだと言い伝えられているから、天才と呼ばれるのも頷ける。
鬼でも人間の急所を攻撃されては、動きは止まるか鈍るものだ。その間に頸を落とす。ごとん、重たい音を立てて頭が地面に転がった。
はじめの頃はこうは簡単にいかなかった。悲しいかな、断頭という行為は、純然たる技術によって、その仕事ぶりが左右される。
これが上手い人物は切腹の時の介錯を任されることもあり、遠い外国ではこれをもっと効率的かつ公平に、苦しまぬようにしようと開発したのがギロチンである。確か。
一瞬にして頭と胴体を切り離すという技術は、それ程までに習得が難しいのだ。これを身に付けるのに何年要した事か。首が上手く斬れず、それはもう地獄の鬼狩りの日々だった。何度も何度も日輪刀を振り下ろされる鬼の身にもなってみろ。憐れだろ。
謝りながらがんがんと鬼の首に釘を打つかの様に刀を振り下ろし、または鋸のように刀を押し引き切ろうとする新人の隊士。鬼でさえもうやめてくれと泣き叫ぶこともあった。もちろんこういうことは、抵抗できないようにしていたからできたことだが。
そんな日々があって、今でこそ一瞬で首が切れるようになっている。主人公はすぐにスパッと斬っていたが、あれは主人公だからだ。原作キャラクター達は鬼狩りの才能があるからできることで。元一般人には難しいことなんだよ。わかるだろ。そして、その斬首の技術が身に付いているという事実に嘆息した。
己が斬るのは人ではなく鬼。だが鬼と言えども生きているし、元は人なのである。それを斬るのだから殺しと同じだ。鬼も他人を殺して食うのだから、それを斬るのは当然正義であるという鬼殺隊の人々の中にあって、どうもこればかりは慣れない。大義名分があるぶん言い訳はしやすいが、やはり自分は元は法治国家の徒人であった記憶が抜けない。これは私刑ではなかろうか。
鬼殺隊は政府非公認であるし、カニバリズムは世界中どこにでも転がっている。法で裁けぬというが、果たして本当にそうなのか。
いや、この世界の鬼は正しく人外であるから、法の外にいると言えなくもないが。
まあそんな詮無い事をつらつらと考えるのも、簡単に言えば途轍もなくやり辛いから、という感情からくるものなのだが。

「師範、こちら終了し、」

後ろを振り向いてから、しまったと思う。
この任務は一人で請け負ったものであり、自分以外に鬼殺隊士は誰もいない。そもそも、己の指南役はすでに鬼殺隊を引退しており、更に付け加えるならば、氏は既に他界しているのである。いくら鬼を斬って安堵と共に気を抜いたからと言って、これはない。流石にない。師と一緒に鬼を斬ったことも無いのだ。完全に疲れが出ている。これが終わったら藤の家でしっかり休ませてもらおう。
鞘に収まっていた刀を再度抜き、背後を斬り払った。ぎゃ、という声が聞こえる前には、血払いをし、刀を鞘に収めている。

「居合、壱の型」

つい技名が口に出るのは元が漫画の世界だからか。まあ、その漫画の世界であって、自分の使う呼吸を見たことがないというのは多少引っかかるものがあるが、漫画で活躍していたキャラクターとも会ったことがないので、そんなものなのかもしれないとも思う。もしかしたら、もっと様々な呼吸があるかもしれない。それに、多分、自分の人生は主人公と交わることがないのだろう。
様子を見守っていたのだろう、鎹烏の羽音がしたため、革手袋をしている左腕を差し出す。

「鬼二体討伐完了、報告宜しく」
「承知シタ。次ノ指示ガ有ルマデ、藤ノ花ノ家紋ノ家ニテ待機セヨ」
「了解」

烏を押し上げるようにして腕を振り上げれば、バサバサと暗い空へと消えていく。鳥なのに頑張るなと思わないこともない。鎹烏は夜目が効くのかもしれない。
鬼が出るのは夜であり、それに合わせて鬼殺隊も動くため、隊士は主に夜を基本として過ごす。昼夜逆転、夜型生活。鎹烏も、使い手の生活に合わせて動くようになっているのだから。
兄弟弟子が肌の調子を気にしていたのを思い出した。
そういえば、育手の葬式以降、兄弟弟子には合っていない。自分含めてやはり全員漫画で見たことのない名であった。きっとこれからも主人公らとの交流はないのだろう。
せめて無意味に命を散らすモブであってくれるなと、切に思う夜である。



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