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- ナノ -

01

「ここで終わりかよ……。かっこわりぃ……」

身体がばらばらになるような気持ちだった。俺の名前を呼ぶのは兄弟の誰かだったか、仲のいい粟田口だったか、もう覚えてない。
痛みはあんまり感じてなかったように思う。寒さも。ただ主に申し訳なくて、今年のトレンドは一周回って大ぶりのドットのマキシ丈ワンピだぞって、言い忘れたのを思い出してしまって、本当に折れる直前、水玉マキシ丈って言おうとした、ような気がする。マジでカッコ悪りぃと思う。その時お守りは持たされてなくて、結局その戦場で俺は折れちまった。

突然だが、俺は前の、前の人生を憶えている。
惜しい、もう一声!なんて言いたいところだけど、流石にその前は憶えてない。だから順当に数えて1番目の人生から振り返ろう。1番はじめはいたって普通だった。そうだなあ、今と大きく違うところといえば、女の子だったってことくらい。いや、今と比べると性格も違ったかな。2番目の、うーん、人生って言って良いのか、ヒトではなかったその生が結構濃くて、1番目はあんまり思い出せないことも多いんだ。派手な生活してたわけじゃない、普通に、一般的に、普遍的に幸せだったさ。そりゃあまあ、女の子の人生としてはちょっと花がなかったなあとは思うぜ。男を侍らすなんて事もなかったし、派手に着飾る事もなかったし。それに比べりゃあ、2番目の生は産まれからして派手なもんさ。死んだと思って地獄か浄土か、閻魔の沙汰をじいっと待ってりゃ、視界がひらけて抱き締められて、探したよ、貞ちゃん!なんだもんなあ。俺の方だって開口一番、待たせたなァ、皆の衆!ときたもんだ。その2番目の生も擦った揉んだ大騒ぎだったけど、随分と楽しかったぜ。
ま、最期はわかりやすく敵の刃に倒れちまったわけだが。ハー、かっこ悪いったらねえ。華麗に躱して、首を刎ねてやるつもりだったんだが、失敗だったな。ああ、やめやめ。かっこ悪い俺の記憶なんて早く忘れちまおう。
そして、今生。前の俺が付喪神だったせいか、まるっとそのまま俺として生を受けちまったが、それはそれ。刀剣男士として生まれたが故にこの姿以上育つことはなかったが、今生はどんどん大きくなれるぜ。目指せ、最高の伊達男。直近の目標はみっちゃんだ!
そう、俺は太鼓鐘貞宗!
天涯孤独の施設育ちだけど、今生も張り切って行くとするかぁ!

「キャーッ!泥棒ーっ!」

と、ちょっと貞宗らしく振舞ってはみたけれど。だいたい中身は1番目の生である「私」がベース。それに刀剣男士の貞宗が混ざって、足されて割られて、この様だ。
今の俺は孤児。施設で前世の貞宗と同じになるまで大きくなった。簡単に言えば引き取り手が見付からない厄介者ってわけだな。まあ、養子縁組をすると苗字が変わって太鼓鐘が名乗れなくなっちゃうから、俺としてはこのままでも構わない。
ともかくだ。
向こうから形振り構わず走ってくる男の進路に、俺の足をそれとなく出しておく。後ろばかりでろくに前も足元も見てないから、こんな子供のいたずらにも簡単に引っかかって、オジサンはべしゃん!勢い良く地面にぶつかって数センチ滑っていった。うわ、イッタそー。倒れた衝撃で手放したブランドバッグを拾い上げ、オジサンの頭上に立つ。

「走る時はしっかり前見て、足元も確認しなきゃな」

息を乱しながら走ってくる女性が、どうやら引ったくりの被害者らしい。軽い体で跳ねるようにオジサンを避けて移動し、彼女へブランドバッグを手渡す。お、美人だ。

「あのオッチャン、姉ちゃんの気を引きたかったのかもなぁ」

なんて軽口もひとつ。細い脚に、走るのに適さないハイヒール。フワフワのフレアスカートに清楚なブラウスとハイソなストール。バッグを持つ反対の手には、中々着こなしの難しそうな薄いベージュのトレンチコート。ますます運動なんかに向いてない。怖い思いをしただろうし、寒い中頑張って走ってきたのだし。ご褒美くらいあげなきゃなあ、なんて刀剣男士の時の癖が抜けきらない。うっかり彼女も年下のようで、俺たちの大事な庇護対象だ。と、いうことで。なんでだか沢山持たされているお菓子を数個彼女に贈呈。顔が良いこの貞宗の笑顔付き。
嫌な事を瞬間でも忘れて、癒されてくれると俺は嬉しい。

「……この、クソガキ!」
「おっと!」

人生まだまだこれからだ。なんて保険のCMあったよね。人生3回目の俺には、並ならない知識ばかりが沈殿して、いらない記憶は消えて行くから、もう1度目の人生の6、7割くらい覚えてないってのは言った気がする。だけどその分、生き死にが近い場所にあった2度目の人生、おっと違った、刃生の経験はこの体になくともまあ8割くらいはしっかり記憶されている。素人同然の粗悪な動き、垂れ流しの煩雑な殺気、背中に目なんかなくたって、男の動きは手に取るようにわかるのだ。振り下ろされるのはきっと量産型の安物ナイフ。こいつらだって、きっと長く愛して大切に使えば、付喪神くらいは宿るんじゃないかな。お姉さんを怖がらせないよう、彼女を誘導しながら避けて、くるりとターン、怒りで我を失っているおじさんがナイフを突き出す。手首を掴み、くるっと背中に回って捻りあげる。からんと落ちるナイフの音、ああ、ごめんな!心の中で謝罪をひとつ。痛い、なんて大袈裟に叫ぶオジサンの腕をさらに強めに捻ってやれば、ギャア、と地面に蹲ってしまった。うおっ、バランス崩しそうだ。そのまま携帯電話の短縮ボタンから呼び出し。短縮ボタンを知らない?もう、みんなスマートフォンばかりの世代なんだから。そういえば主は本丸のAI、音声呼び出しのハンズフリー通話だったっけ、近未来SFは違うねえ。
で、相手は誰かって?そんなのもちろん、知り合いの警察官さ。

「あ、もしもーし!元気かぁ?俺は引ったくりの現行犯を捕獲したぜ!」


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