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- ナノ -

06

「貞ちゃん!」
「みっちゃーーーん!」

救急搬送された男達を見送って、走ってきてくれたスーツの警察官、燭台切光忠に飛び付いた。わーんみっちゃん、怖かったよー!というのは正確には斬ってしまったおじさんが死ぬんじゃないかと気が気ではなかったという恐怖だったんだけど、これはみっちゃんが鶴さんか加羅にしかわからない恐怖だろうと思う。過剰防衛で怒られる可能性は大いにあるが、そんなことはいいんだ。みっちゃん俺を抱きしめて撫でて俺が世界一可愛いとかかっこいいとか言って褒めて甘やかしてくれ。いやみっちゃんにそれを言わせるのは酷だろうか。鶴さんが来ているらしいから鶴さんにめいっぱい甘やかして貰おう。

「すっごく心配したんだからね!」
「ありがとう!!!心配かけてごめん!!!」

みっちゃんの大胸筋に感謝と謝罪をぶつけた。ごめんみっちゃん、いつもアイロンでパリッパリにしているスーツをめちゃくちゃにしてる。
俺のポケットの中に入っていた蝶の彼女は警察に没収されてしまった。俺の手元に戻って来ることはないだろう。どこかで彼女の分霊に逢えたらいい。そうしたらキッチンに立つ約束を果たそうと思う。

「なんだ、元気そうじゃないか。誘拐されたと聞いた時は驚きでひっくり返そうだったんだが」
「鶴さん……」
「光坊にGPS機能を使って道案内をしてやったのさ。それから加羅坊に連れて来てもらった」
「……加羅も心配してくれてありがとな……!俺は元気だぜ……!」

あのおじさん達が死なないって聞いたからよ!それまではオロオロわたわた、久々に涙が出そうだった。守るべき、守って来た我が日の本の国の民、例え悪辣の徒であったとしてもその流れる血は俺たちの誇れる国民のものである。それを手に掛けたのだから、そりゃあもう恐ろしかった。死ぬときは死ぬが、何も彼らはその時ではないはずだ。この恐怖は刀剣男士の彼らにしかわからないだろう。けれど、それを打ち明けるつもりはない。これとの決着や折り合いを、三人は既につけているから。時に命を守り、時に奪うものとして、三人はこの世界に生きている。
しがみついていたみっちゃんから離れた。加羅と手を繋ぐ。握り返してくれる加羅は優しいな。その優しさにかこつけて俺は加羅を連れて鶴さんの家に行こうと思う。ベコベコに削れた自尊心を満たすために今日は二人と寝るんだ。決めたぞ今日は施設に帰らない。本当はみっちゃんも連れて行きたいけど、この感じだと今日はみっちゃん、家に帰れなさそうだ。今度何か差し入れでも持って警視庁に行ってみようかな。門前払いかな。

「コナン君もありがとね。君がいなかったらここまで来れなかったよ」
「お?そういえば君か、GPSが効かなくなった後になんとかしてくれたのは」

ぬうっと視界に現れた江戸川少年にビクッと体が跳ねてしまった。全く眼中になかったのである。すまない江戸川少年。三人に夢中だった。

「いや〜あはは……」

どうやらここは山の中で、俺のiPhoneの信号が途中で途絶えてしまったらしかった。そこで活躍したのが江戸川少年の推理力。ほんの少しの小さな手掛かりを得て、犯人達の行く先をズバリ当てたというのだ。うーん、さすが名探偵、さすが主人公。ここ、圏外じゃなかったから、俺のiPhone壊されたのかな。小屋の中になかったもんな。折りたたみの携帯電話もなかったけどあれはどこいったんだろ。一緒に捨てられでもしたのかな〜気に入ってたんだけど、あれ。ま、いっか。多分どこかでまた携帯電話を持たされることになるんだろうしな。

「俺からも礼を言わせてくれ。ありがとな!」

だってもう少し遅かったらおじさん死んでたかもしれないし。流石に殺してしまったらヤバいだろ。不可抗力って言っても少年院の可能性がないわけじゃねーからな。いや、司法に関しては全く知識はないけれど。

「太鼓鐘お兄さんが無事で良かったよ」
「おー、バッチリ無傷だぜ」

ただ江戸川少年は一体なんでこんなところに来てしまったんだ。事件とはいえほぼ関係なかったろう。いや君がいたから俺は殺人をしなくて済んだんだけどさ。有難いことだ。やっぱ物吉どこかで俺のこと見てるな。今日はめちゃくちゃ運がいい。誘拐はされかけたけども。
そろそろ空では星が瞬き始める時間だった。というか既に一番星が輝いている。

「それじゃあ僕はコナン君を送って職場に戻るよ。貞ちゃんは後日呼び出しがあるから、その時は寄り道せずにちゃんと警視庁に来るんだよ」
「OK、了解だ」
「太鼓鐘お兄さん、またね」
「じゃーな!お前も誘拐には気を付けろよ!可愛い顔してんだからな!」

またねーって手を振られてしまった。また会える可能性があるのか。なんか嬉しい気持ちだ。やったぜ。うーん、しかしやっぱり暴力的なキュートボーイだ。みっちゃんのパトカーが山を降りていく。今更とばかりに周囲を見回してみた。俺の誘拐監禁兼殺陣現場には数人の警察官、鑑識さんが残っている。黄色いテープが張られている。うわ、ドラマの世界だ。すげー。
俺の手を握る加羅の手に力が入った。どうしたんだ。見上げるものの、暗くなって来た周囲のせいか、加羅の色黒のせいか表情が判別できない。なに?仕事仲間でもいたりするの?
あ、もしかしてどうやって帰るのかって考えてるんだろうか。そういえばそうだな。加羅は鶴さんと来たはずだ。鶴さんはわからないけど加羅は免許は持っていても自動車は所持していない。鶴さんが連れて来てもらったと言っていたから、多分バイクだ。三人は乗れない。えーどうする?鶴さんがニコニコしながらこっちにやって来た。あれ、いつのまに離れてたの?

「迎えを寄越したぞ。バイクは車の後ろに乗せよう。俺も加羅坊も貞坊が心配だからなあ。施設には連絡を入れておく。今日は俺の家に泊まりだ!」
「ほんとかよ鶴さん!やったー!鶴さんちのベッドでかいしふかふかだし好きなんだよな!加羅、加羅!鶴さんちだ!」
「……ああ」

俺の心を読んだかのような展開!流石鶴さん、伊達にじじいと自称するだけあるぜ。鶴さんの家のホテルのようなフワフワのベッド、実はみっちゃんも含めて四人で寝てもちょっと余るくらいのデカすぎるベッドがある。俺はそこが好きなので、今日もそこで寝かせてもらえるはずである。そうすれば加羅も鶴さんも一緒に寝てくれるだろうから、やったーめちゃくちゃに甘やかしてもらおう。
星空が出来上がって来ている。そうだ、みっちゃんのこと鶴さんに言ってあげないと。それからスパリゾートの話もしなきゃだし。
この幸運は物吉のおかげだろうから感謝しておこう。ありがとなー!この世界にいるのかわかんねーけど!
とりあえずこのあと殺人事件とかに巻き込まれませんように!


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