刀剣 | ナノ
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▼ 06 

日本号に連れてこられた御手杵は、真正面から見ると更に幼く見えた気がした。あのでかい図体の御手杵と本当に同位体なのかと疑う程に。彼が床下から這い出た時も思ったが、あまりにも幼い。一桁と言っても通じてしまうだろう。
自分は彼の本体の手入れをしたが、本体は普通の御手杵、四メートルもある大きな槍だ。あの体では本体を揮うことも出来まい。
刀剣男士として、戦う者として望まれて顕現されていないのだという事に、なんとも言えない気分になる。

兎にも角にも先ずは、と状況を説明し、当たり障りなく同業者のしでかした事を謝罪する。
日本号にしがみ付いて震える彼が、俗に言うブラック本丸に所属していた事は陽の目を見るよりも明らかだった。
そもそも事前に自分の刀剣達から報告を聞いて、腸が煮えくり返っていたのだ。あの姿を見てますます彼の審神者を憎らしく思う。
彼に拳を振るうばかりか、夜伽をさせていた痕跡もあったという。挙げ句の果てに絞首とは。見下げ果てた奴だ。同じ職業と思いたくない。
大きな体のものにひどく怯えているというから、第二部隊をそのまま出陣させておいてよかったと思う。蜻蛉切もまだ怖がっている様子だと聞いているし、短刀達からも逃げていた事を考えて、彼の本丸は地獄のような場所だったのではないかと思わざるを得ない。
ただ、日本号には慣れたようで、頼りになる男士が出来たならと少し安心した。

一通り言いたい事を言い終え頭を下げると、少し青い顔をした小さな御手杵は、頭を上げてくれと慌てて言った。そのあと、ぽつりぽつりと彼の内心が述べられる。自分の審神者に関しては特になんとも思っていないふうだった。それどころか、人ってそういうもんだろ、仕方ないよなあなんて事を言い出すのだ。仕方なくないだろう、お前はあんなに傷だらけで、誰も彼もから傷付けられるのを恐れて隠れていたというのに。それを指摘すれば、それは自分の問題だからと情けない笑みを浮かべる。
あんたはどうか知らないが、俺は俺を生んでくれた人間が好きだ。
さらりと答えられた言葉に、鼻の奥がつんと痛んだ。視界が潤み、喉の奥も引き攣って痛む。
そして、日本号の服を掴んで離さなかった彼が静かに前へ出、真剣な表情で居住まいを正す。傷を癒して下さって有難う御座いました。自分では力不足でしょうが、何か出来る事があればお申し付け下さい。そうして彼の口からでた言葉は、要約するとそういった内容だった。
ざわりと周りが騒がしくなるのも仕方がない。あの御手杵だぞ。ブラック本丸産で子どもの姿といえど、御手杵だ。こういう場だからこその物言いなのだろうし、多少色は付けたにしても、ここまで丁寧な御手杵は見た事がない。
一瞬固まってしまったが、気を取り直して、ならば人間勝手な思いだが、我が本丸にて力を奮ってはくれないかと言うと、彼は困ったように首を傾げる。

「でもおれ、帰らないと」

「むかえが来るはずなんだよな」

「それをずっと待ってるんだけど」

「まだ帰ってねえの、気付いてないのかな」

ン"ン"ッ!!!
咳払いをする形で何とか事なきを得た。
付喪神達は刀を振るう姿形に精神年齢を引きずられているという。もちろん短刀達は数百年、数千年と生きた刀剣だが、子どものように素直で無邪気だ。脇差もその見た目に沿った、それらしい精神構造をしている。
ならば目の前の幼い御手杵はどうだろう。
普通なら理解できる状況も、幼い精神構造故に、理解できていないのだとしたら。
涙が出そうになる。幼い御手杵を顕現した審神者を俺は許さない。
こんな可愛い御手杵をなぜ捨てようと思った。

「ちゃん、と、預かるって……連絡してあるから……」
「えっ、そうなのか?」

じゃあいいか、なんてあっけらかんと了承する姿はまごう事なく御手杵だ。
どうやら話を聞いて、喋っているうちに恐怖も薄れてきているらしい。これはいい兆候だ。
元が御手杵だからだろうか。
そんな気がしてきた。
あいつ何やっても俺が戯れてると思って最終的に振り回すからな。ああいうとこ嫌いだ。いや嫌いじゃないけどちょっとイラっとする。俺が怒ってる時でも戯れようとするな。お前は脳の足らん犬か。少しは空気を読め。そういう空気出してる時は周りに倣ってくれ。反省する時は大型犬みたいに可愛いんだけどなあ。
思考が逸れた。
とりあえず、この小さな御手杵の契約云々は後にして、空気を入れ替える為にと手を叩く。

「よし、じゃあ飯にしよう。御手杵、用意をするから風呂に入って来い。ずっと入ってないんだろう」


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