刀剣 | ナノ
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「#幼馴染」のBL小説を読む
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▼ 04 

太陽の光を浴びてふかふかに仕上げられた布団に喜び、また大きな瞳をぱちぱちと瞬きさせる子どものなんと可愛らしい事か。
きょろり、きょろりと自分の体を見回して、こてんと首を傾げる。
完璧な手入れとはいかなかったと主は言っていたが、それでも傷は大きなもの以外は全て塞がっているし、なにより腕はきちんと元通りだ。そのせいだろうか。あれ、どうして、と漏れ出る声には、いかにも不思議だと言わんばかりの疑問が溶かされていた。

「起きられましたか、御手杵殿」

今まで気付いていなかったのだろう、こちらの声を聞き、子どもは飛び上がって驚いた。座っていてもこちらを見上げるその小ささは、やはり同位体に慣れていて、違和感ばかりを感じてしまう。
ひゅっと子どもが息を吸う。揺れる瞳に染み出すのは恐怖の色だ。子どもは布団から転がり落ち、そのまま部屋を飛び出した。

「御手杵殿!」

自分も慌てて部屋を出る。しかし、どこにも子どもの姿は見当たらない。日が落ちかけていく本丸だ。どんどん視界が利かなくなる。濡縁を走る。その音に気付いて声を掛けてくる刀剣達にも手伝いを頼みながら、彼の名を呼ぶ。この本丸の御手杵が遠征中で良かった。
主も騒がしさに執務室からひょこりと顔を出す。小さな御手杵のことで今、彼は忙しかった。
しかし、事の次第を話すと彼もまた慌てて捜索に加わってくれる。太刀以上の者達は夜の帳が下りるとその目は必要以上には使えなくなる。夜の探し物は夜目の利かない自分たちよりも人間である彼の方が適任であった。

「こっちに居た!」
「おいさっき廊下走ってたぞ!」
「門だ、門のところにいる!」
「ああっまた逃げたあ!」

大騒ぎだった。本丸総出での子どもとの追いかけっこはそのまま夜通し行われた。どこへ行った、探せ、と血眼になって一人の子どもを探し回る姿は、今思えば、子どもにとっては恐怖でしかなかっただろう。けれどその時は全く頭が回っていなかったのだ。
日が昇りはじめ、全員に疲労の色が浮かび始めた頃、五虎退が発見したとの報が本丸内を駆け、全員が安堵の表情を見せ、各々の部屋へと帰っていく。自分は子どもの元へと走り、主と五虎退がいる場へと近付いた。

「……御手杵殿はどちらに?」
「この下だってよ」

主が床下を指差す。失礼、と一言断ってから覗き込めば、ぎゅっと丸くなっている緑の塊が一つ。御手杵殿、と声をかけるが、びくりと身体を跳ねさせただけで動く気配はない。
如何した、とちょうど廊下を歩いてくるのは日本号である。この下に小さい御手杵が、と主が言う。

「……こんなとこにか。おおい坊主、何やってんだ」

日本号も床下を覗き込む。
自分が先ほどまでやっていた事とはいえ、大きな身体で床下を覗き込むために寝そべってしまうのはよくなかったか。

「別にオレ達はお前に何もしねえよ、ほら、出て来い」
「……うそだ」

怯えた声だった。

「知ってるぞ。みんなそうやって無害を装って、のこのこ出てきたら斬るんだろ」

しない!と主が声を荒げた。そんな事しない。だったらどうしてお前を手入れなんてする。どうしてお前を助けたと思う。お前に生きてほしいからだ。そう叫べば、床下から子どもが動く気配がした。おっ、と日本号が声を出す。

「……俺を痛めつけてたのしむんだろ、だからきれいになおすんだ。死なないようにして、ずっといためつける、そうなんだろ! あんたたちはそういう生き物だ」

主が崩れ落ちる。膝をつき、顔を覆ったまま蹲った。五虎退が慌てて駆け寄り安否を確認する。主からは鼻をすする音が上がる。

「……御手杵殿。大丈夫です。ほら、私には何の武器もない」

しゃがみこみ、彼を確認しながら両の手を見せる。

「きらなくても、なぐれるだろ」
「……それも、そうだなあ。じゃあ、こうしよう。オレ達は手の届かねえところまで下がる。そしたら坊主が出て来りゃいい。坊主が出て来ねえことには何も始まらねえからな」
「えんがわの上に誰かがいるかもしれない」
「でしたら既に、御手杵殿は刺されておりますぞ。床下におるのですから」

ゆっくりと彼の顔が上がる。ゆらゆらと視線が彷徨い、落ちた視線のまま、そうだな、とこぼした。

「……ほんとうに、なにもしない?」
「ああ」
「約束致します」

わかった。その言葉を聞き、自分達は後ろへと下がる。ずりずりと床下から音が響き、漸く出てきた小さな子ども。
起きたばかりの綺麗な姿はなく、裸足で走り回ったせいで足は傷だらけ、床下に長時間いたために全体的に埃っぽい。
日本号がしゃがんで子どもと視線を合わせようとする。

「ほら、何もしねえだろ。何を怖がってんのか知らねえが、よく見てみろ。オレ達はお前の味方だよ」

子どもの目からぼろぼろと涙が溢れ出した。そのままふらふらと日本号の元へと歩いていく。少し怯えて、近付くにつれ歩く速度は遅くなっていったが、漸く腕を伸ばせば届くという距離までになる。
日本号が両腕を広げた。子どもがよろよろとその腕の中に入っていく。ぎゅっと抱きしめ、抱き上げられた子どもは、彼の胸元に顔を寄せ、怖かったとしゃくりあげて泣いていた。

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