刀剣 | ナノ
×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


▼ 06

うちの包丁藤四郎が処女厨ってことが判明したのは、顕現して半月くらい経ってからだった。いや、それまでにも並ならぬ情熱を持って処女の良さを鶴丸に語ってたからそうかも知れんとは薄々感じてたんだけど。その演練ではっきりした。
包丁藤四郎ってよくわからないけど相手が人妻かどうか判断するセンサーがついてるらしいじゃん?うちの包丁藤四郎も直感的にそういうのがわかるらしく、時折インターネットの画像を見ては叫びながら頭を抱えたり、テレビで女優の結婚報告を見ては叫び声をあげたりしてた。
どうやら俺のところの包丁藤四郎、相手の性別、人妻かどうか、処女かどうかがわかってしまうらしい。これはその事件の後に発覚した、というか彼から聞いた事実。
その日は演練に鶴丸と包丁を連れて行った。女の審神者が多い分、女の子が好きな包丁がうろちょろするだろうからって鶴丸が包丁と手を繋いでくれてたんだよね。屈強な腕の鶴丸がさあ……何度か二度見されたよね。他の鶴丸とはほんの少しだけなんだけどやっぱり筋肉のつき方が違うんだよ。本人はいつも「クソッ!どうして筋肉が付かないんだこの体!おかしいだろう!こんなに!努力!しているのに!まだ足りないと言うのか!……もうワンセット増やすか……」とか言ってるんだけど。まあ体が鶴丸だから元々筋肉が付きづらいのかもしれない。最近は山伏国広や蜻蛉切と一緒に鍛錬と言う名の筋トレに励んでいるよ。
話逸れたな。
演練の初めの相手は可愛い女審神者だった。包丁はもちろんその審神者に話しかけに言って、楽しそうにしていた。頭を撫でてもらったり、飴をもらったり。向こうの短刀と仲良く会話してたな。で、戻ってきて「マジクソ最高。あ、社長、これ彼女から」って飴をくれた。それお前に彼女があげた飴じゃない?て思いながらもありがたく貰った。うちの包丁、甘いものよりは辛いものが好きなんだよな。
で、次の審神者も女性だった。どうやら別の男審神者と夫婦のようで、お、これはと思って包丁に声をかけようとした。ら、包丁がめちゃくちゃ複雑そうな顔して女審神者を見てた。
「グ……人妻……黙れ、違う……俺は人妻が好きなんじゃねえ……ッ!あれは……あれは非処女じゃねえか……ッ!許せねえ……でも女の子は幸せになってほしい……いや無理……非処女は無理……」
って呟きながら。大丈夫?包丁くん???そのあと包丁は自分のカバンの中からスルメイカを取り出して無心に貪ってた。うちの包丁の鞄の中、おつまみだらけです。
三人目の審神者も女性で、一期一振を連れていた。可愛いと言うより美人系で、おっぱいも大きかった。ごめん、さにわおっぱいしか見てなくて負けた。白状する。でも包丁はやさぐれた顔でスルメを噛んでた。どうやら審神者と一期がデキてるみたいだった。遠目でそれがわかるお前さんはすごいよって頭を撫でたらはたき落とされた上に睨まれた。ごめんって。
「あんな綺麗な女の処女をあろう事か俺の兄とか言ってくる男が散らしたのがあまりにも許せなさすぎて今日はもう一期兄貴に優しくできねーわ。無理。ありえねえ、最高かつ清らかな乙女の象徴を食い散らかすのがあの野郎のやることなのか?無理だわ、最低だわ……いやでも幸せそうなお姉さんの顔……クソ……幸せになれよ……」
包丁くん本当その精神状態大丈夫なの?あまりにも心配だからやっぱり頭を撫でた。はたき落とされた上に鶴丸の方に逃げられてしまった。その上次の演練までずっと睨まれてた。ごめんって。マジで。
四人目の審神者は男性だった。三条と鶴丸の部隊でちょっとあんまりにも羨ましすぎて審神者は操作ミスをしました。ここに懺悔します。
演練後に挨拶に来てくれた審神者と話してたら、包丁くんが審神者を見てギョッとした顔をして、真っ青になって鶴丸の方に逃げていった。こっちがギョッとしたわ。あとでどうしてあんな失礼な事をしたのか聞いたら、あの男審神者は誰かの人妻なのだそうだ。非処女の。うわ聞きたくなかった。そう言ったら包丁がスルメイカをくれた。やさぐれた気持ちで噛み続けると味が染み出して噛むほどに旨味が滲んでくる。なるほどこうやって嫌な記憶や感情を薄めていたんだな、と理解したので頭を撫でてあげた。やめろと言われて鶴丸の方に行ってしまった。鶴丸には素直に撫でられるくせにい!
最後の審神者は背の高い女性だった。極短刀ばかりの強すぎる部隊でぼろ負けしたんだが、こればっかりは運がなかったと言うことで。
で、終わった後の恒例の挨拶でやってきた包丁が、彼女を見て泡吹いて倒れた。慌てて包丁を回収して、本丸に戻った。多分、あの女性も非処女だったんだろうなーと思ったんで、心配する彼女に大丈夫だからと強引に帰って来たんだけど、まあ結果的に包丁のためになった。
包丁曰く「オカマの人妻じゃねえ非処女見て泡食って倒れちまったのはマジ遺憾の意」らしい。めちゃくちゃに知りたくなかった真実を知らされて俺の精神状態も悪くなってしまったため、その日は演練が終わった後の仕事は全部お休みして俺はマイスイート初期刀ゴールデンハニーに手を握ってもらいながら眠ったよ……。
因みにその日も鶴丸はいつものルーチンをこなしていた。次の日の朝トイレで早く目覚めすぎた時に鶴丸が本丸の外周を走り込みしてたんだが、ぼやっとした薄明かりの中でやつの白さが幽霊に見えて絶叫し、本丸のみんなをたたき起こしてしまったのは申し訳ないと思う。
で、完全に処女厨であるとわかったうちの包丁に、詳しく話を聞いたんだ。
「人妻が嫌いなわけじゃねえんだ。人妻であるということは、処女という確率が限りなく低くなっちまうから好きじゃねえだけで、処女の人妻は大歓迎だ。でもな、女の子ってのは幸せの中にある笑顔ってのは最高にキラキラしてんだ。わかるだろ。だから俺はそれを否定はできねえ。そんでもって、女の子達は子育てに幸せを感じる子が多いんだ。わかるか?子育てだぞ?産んじまってるんだ、子供をよ……処女じゃねえんだよ……その子はもう……!だけどそれが幸せなら仕方ねえよな、輝いてんだからよ……!でも俺は無理なんだ……!なんで処女じゃねえんだ……!俺は別に俺にその純潔を捧げて欲しいわけじゃない……いや確かに初めての男、良い響きだとも!けど俺がァ、それを、散らすのはちげえだろ……!処女じゃなくなっちまうんだからよ……!でもそんな、俺と繋がってくれても良いっていうような素晴らしい女性がいたとして、その子が処女じゃなかったら俺は、俺、俺は絶対ェその子を傷付けちまうからよォッ!だって俺以外の男を受け入れやがったんだぞ、俺はそれは、クソッ、許せねえ……ッ!許せねえ俺も許せねえが……それを散らそうとした俺も……その子の純潔を散らかした野郎も許せねえ……ッ!想像に過ぎねえが腹が立って来やがった……!!!清らかなおとめ、おとめは処女って書いておとめって読めんだよ……!クソッ……産経婦、良いよな……!99.99999パーセント以上の確率で処女じゃねえんだけど……でもな、社長、聞いてくれるか……旧約聖書って、あるだろ……?聖母マリアは知ってるよな……知ってるだろ……!?なあ!彼女は処女で子供を産んだ奇跡の女性なんだ!処女懐胎!最高過ぎるだろ!人妻で!子持ち!なのに処女!ありがとう神様!俺はあんたとなら良い酒が飲めると思う!だからさあ社長……もし……もしも……処女懐胎した女性がいたら教えてくれよな……」
大丈夫じゃねえな。そうおもった。結論として性癖拗らせ過ぎ藤四郎って答えに行き着いた。
ちなみにその時鶴丸は最近教えられた穴掘りをグレードアップした上で掘っては埋め掘っては埋め、ていう運動をしていた。鶴丸めちゃくちゃにヤベー穴を作るんだよ。落とし穴と言うよりはその穴に隠れて敵を待ち気付かない敵が近づいたら殺す、みたいな罠だ。そこに鶴丸が入るんだけど、何かの映画の影響なのか顔にまで色を塗るんだよな。完全に背景に溶け込んでる。穴自体隠してないんだが、それに気付くまでの周りの状態が完璧なんだ。遠くから見たら穴なんて見つからない。そこに人が入ってて、頭を出してても見つからない。強過ぎる。海兵隊かな?て言ったらなるほどその手があったか!みたいなこと言われた。砂浜で走るのは負担がかかって良いトレーニングなるらしいです。こんど本丸に海ができます。え?マジ?て思ったらまあできないこともないんですが、お金と審神者様の潤沢な霊力が必要ですって言われて、あ、じゃあお願いしますって言ってしまった。俺の貯金がどんどんなくなる。構わんよ、刀剣男士達が楽しいならそれで……。

prev / next