刀剣 | ナノ
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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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▼ 05

目の前に座る燭台切光忠は、自分が顕現した刀剣男士ではない。
いや、正確に言うならば、その肉体だけは自分の霊力によって編まれた肉体であるが、その本体である刀は別の人物の所有である。だ。
第一部隊が合戦場から拾得した燭台切光忠の肉体は、歴史修正主義者の遡行軍に首を刎ねられてしまった。本体が破壊されていなければ、肉体がどうなっても大丈夫ではあるが、彼らの戦況を逐一確認している審神者としては、偶然のスプラッタな光景に絶叫せざるを得ず、また目の前で自分の刀剣男士とは言えずとも、首を刎ねられた者がいたら即帰還させるに決まっている。廊下を走るなと言われようと、今回ばかりは大目に見てもらいたい。全速力で大手門まで迎えに行って、帰還した第一部隊から燭台切光忠を受け取って、全速力で手入れ部屋へと走った。大変に疲れました。手入れ部屋で本体を手入れし、霊力を送り込む。ぱっと正座姿で現れた彼は、目を開き、こてんと首を傾げた。

「……死んだはずだったんだけど」

何故生きているのか、といった風だった。
我々が保護したんです。そう言えばなんだ、そうか、と残念そうな表情をしていたが、それならばと彼は立ち上がる。彼は礼を述べてから立ったことが失敗だったと言わんばかりに謝罪して、また正座してから、己の本丸へ帰還したいと申し出た。
残念ながら、彼の本丸の座標も、審神者名も知らなければ見知らぬ審神者へ個人で連絡を取るのは難しい。誓約書や報告書なども多々書かなければならないし、帰還するのはまだまだ長くかかりそうだと言う旨を伝える。

「そうですか。……すぐ帰れないのは残念ですが……時間がかかると連絡が行くのなら……彼も納得してくれる……と思います」

きっと。怒られるんだろうな、仕方ない、何日開けてしまったんだろう、なんてぽろぽろと溢れる声は、彼の本丸を心配する故だろう。少し違和感があるとすればその口調であるが、刀剣男士は個々によって多少の違いは存在するし、審神者によっては躾に厳しいところもあると聞く。その様なものだと解釈した。
それでは、と数日ここで世話をする旨も伝えたところ、彼は大いに驚いた顔をする。そして困惑の表情を見せ、恐る恐る、とこちらに伺いを立ててきた。費用のほどは、如何程になりますか、と。どうやら滞在期間中にかかる色々な経費を心配してくれているらしい。そんなに心配せずとも、費用を請求しようだなんて思っちゃいない。刀剣男士が今更一人二人増えたところで、何も変わりがないからだ。だけどもしそれが気になると言うのなら、向こうの審神者に要求する。そう言えば彼は酷く怯えて、審神者には請求しないでくれと懇願してきた。稼ぎが少ないけれど、自分でなんとかしますから、とまで言われてしまった。そ、そこまで必死にならなくても。別に無償でも良いと言えば、それは本当に大丈夫なのかと迫られてしまったため、であれば何か手伝ってくれると助かると応える。彼はその言葉にホッとした表情を見せた。表情の豊かな燭台切光忠だと思う。
それでは本丸内を案内しますと手入れ部屋を出ると、そこに待っていたのは伊達組、と括られる四振りだった。大倶利伽羅は、どうやら鶴丸国永に引き摺られてきた様であったが。
太鼓鐘貞宗と燭台切光忠は、第一部隊に編成していた。よほど心配だったのだろう。同位体の自分を見て、光忠が細部点検を行っている。

「……ええっと、その、」
「うーん、よし!異常なしだね。僕……も君だけど。はじめましてだからね。燭台切光忠だ」
「……よ、よろしく、おねがいします」

きゅっと目を細めて、拾得した燭台切が、光忠を見る。真正面から自分をまじまじと見るのは初めてなのだろう。眩しそうだ。下から貞宗と、横から鶴丸が交互に自己紹介をして喋りだす。無理矢理に大倶利伽羅も紹介され、燭台切は押されっぱなしだ。はいはい、そこまで。今から彼を案内するから、と告げると、俺たちが、と貞宗が燭台切の手を引いて歩き出した。
微笑ましく思いながら、彼らの背に任せた旨を伝えて、その場を離れる事にした。この本丸を担当する職員にまずは連絡を入れなければ。遺失物届が出されているといいのだが、彼から聞いた審神者の名前は、とてもよくある物だったから、果たしてすぐに見つかるだろうか。心配である。


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