刀剣 | ナノ
×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


▼ 14 

驚いたどころの話じゃない。

茶目っ気たっぷりに、他の刀剣の常套句を口にしながら笑む大倶利伽羅を前にして、本当に乱藤四郎とは別の本丸から出て来たのだというのが理解できた。
姫御前、なんて自分にはあまりにも似合わない。こちとら女子力とは分かり合えていない人間なのだ。
それをわかっていて言っているのだろう。さも愉快そうに笑う彼は、今まで見てきた大倶利伽羅とは別のものに見える。亜種、という奴だろうか。亜種とはこれ程はっきりと違いを見せるものだったかな。確かマニュアルだか教本だかがあったはずだ。後で読もう。
先人達にも報告して今後の方針を相談したいし、政府への報告書は新しく書いて提出しなければならない。面倒くさい。何もせずに寝たい。今日は歌仙が近侍だから、きっとスパルタなんだろう。さっきもお願いしたからな。大学のレポートで喚いていた頃に戻りたい。
彼への報酬も考えなきゃいけない。嵩張らないで刀の神様が満足するようなものってなに? お酒かな? これも先人達に相談しよう。
ああそうだ、そう、本題は終わったけどまだ聞きたいことがあるんだった。言いたくないなら良いんだけど、と前置きをして会話を再開する。政府への報告書に書かなきゃいけないから実はすごく話して欲しいんだけど。

「どうして君は阿津賀志山に居たの?」

大倶利伽羅はその質問にふっと視線を落とした。かの場所に単騎出陣なんて気が狂ってるとしか思えない采配だ。自分だって始めたばかりで駆け足で、言われるがまま時代を開拓して行ったけれど、阿津賀志山を周回できるほどの練度はまだない。敵陣に斬り込む時は、みんな中傷くらいなのが常だった。だから基本的に、阿津賀志山には挑戦しない。あの時は獅子王が行きたいとねだったから行かせたのだ。久々に挑戦してみようぜ、と。結果、我が本丸に二振りの刀剣が増えた。
そもそも第二部隊までしか結成していない本丸だから、同位体は居ないし、少し増えたところで問題はない。その二振りが訳ありじゃなければ。いや訳ありじゃなく、収得した刀であったなら、顕現せずに置いていただろう。
自分はこういうものを育てるのが苦手であった。複数を同時に育成するRPGは苦手で、つい先頭にいるキャラクターや、主人公が強くなってしまう。満遍なく育てるのが下手くそなのだ。基本、やる時はゴリ押しである。
故に、この本丸にいる刀剣男士は十二振り。
中には大倶利伽羅と縁の深いらしい太刀も居るけれど、私も彼も忙しくて会わせていない。
話が逸れた。

「……俺から主を奪った女から逃げてきた、それだけだ。詳しく語るところはない」

今切実に端末が手元に欲しい。きいて先輩方。これってどういう事なんですか!
ああこんのすけ、お前が今台所で油揚げをもらっている時、主の私は途方に暮れているよ。ヘルプミー。私は審神者業に詳しくないんだ。
とりあえず了解と返事をする。今の所話はそれだけだと伝えると、呼ばれるまでの間はどうすれば良いのかと尋ねられる。考えてなかった。雇い入れるという関係の手前、内番なんかをさせるなんて感じじゃないし、ここの本丸に暇を潰せるような場所もほとんど無い。今まで寝ていた場所を君の部屋にするから、とその部屋で待機させる旨を伝える。了承の言葉を返され、彼はそのまま部屋を辞した。
自分も素早くその部屋から出て自室に戻る。兎にも角にも、先輩方へ指示を仰ぎたいのだ。





端末を前にして大きくため息をついた。
ブラック本丸と乗っ取り審神者。ネットワークの先人達、審神者業の先輩方の答えだった。
ブラック本丸。これは乱藤四郎のいた本丸の通称だ。希少な刀剣のために資材を鍛刀へ注ぎ込み、手入れへの資材を節約する。となれば手入れはされずに刀剣達への無茶な指示が行われ、最終的には折れていくのだという。
また、刀剣男士達との契約によって此方へ手が出せないのを良い事に、暴力を振るって審神者自身のストレスを解消する輩もいるらしい。家庭内暴力と似ているのだと言っていた。
その刀剣男士達は見目が麗しく、審神者に対して従順である。男だらけで情欲の昇華が難しい閉鎖空間によって、華奢な刀剣や美しい相貌の彼らに欲をぶつける者も居るのだそうだ。
乱藤四郎の本丸は、そういう暴力と性的な虐待がある、確実なブラック本丸だそうだ。
そして、乗っ取り審神者。これもブラック本丸と双璧を成す問題で、主に希少な刀剣が多かったり、練度の高い刀剣の多い本丸を中心に行われる。その本丸の主から、無理やり刀剣を掠め取る、という行為。その、本丸を乗っ取る手順が姑息で、気付いた時には遅かった、という事案も多いようだった。大倶利伽羅の問題はこれだろう、というのが彼らの見解だ。
因みに彼の刀の錆は、その審神者によるまじないではないか、という意見もあった。のろいとも、まじないとも読めるそれは、彼を審神者の元から逃げ出さないようにするためのものだったのではないか、というのだ。だが彼は外に出て私の本丸にいる。つまり、その威力が薄れた際に、逃げ出したのではないのか、と。

頭がいたい。
自分も人間だけど、人間って本当に汚い。
大倶利伽羅へも、乱藤四郎へも、慎重な態度で臨むように、と書かれたアドバイスを見ながら、ふとあの大倶利伽羅の茶目っ気が気になって端末へ文字を打ち込む。
この大倶利伽羅って、亜種、というものなんでしょうか?
途端に流れていく掲示板の文字の早さに苦笑する。みんな暇だなあ、と思わない事もない。それに救われているのは私だけども。
うちの大倶利伽羅が死んだ。
というレスポンスに声が漏れた。その後も延々と判定ではないものが続く。
大倶利伽羅が亜種かどうかの判断はきっとまだ時間がかかるのだろうな。
いやでもあの大倶利伽羅が死んだが気になる。詳しく話して欲しい。亜種かどうかも気になるけどまずはその大倶利伽羅のことを話せ早く。

『同位体の危機だからと一緒に見てたんだが「どうだ、驚いたか」の辺りで恥ずかしくなったらしく変な声を出して顔を真っ赤にして倒れた。今隣で転がってるwwwww』

可愛いなお前んちの大倶利伽羅。

prev / next