刀剣 | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -


▼ 10 

朝から本丸内は大騒ぎだった。
燭台切と鶴丸が異変に気付いて主に報告したのがことの始まりだ。

大倶利伽羅が、居なくなった。

漸く本丸に馴染んできたと思っていた矢先のことで、主はどうして、と泣きそうな顔だ。
だけど、彼の事を静観していた刀剣達はやはりなあという呟きも多い。僕もそう思っている立場の一人だ。
あの大倶利伽羅が、主の本丸にずっと居座るとは思えなかったのだ。遅かれ早かれ、いなくなるだろうと思っていた。
それは誰かに譲られるとか、出陣した先で折れるとか、そういう一般的なものだと考えてはいたけれど。
そこだけは予想と違って驚いている。
手入れ部屋に安置されていた彼の本体もきちんと持ち出されているし、三人一緒に寝ていたのだという部屋の布団もきっちりと片付けられている。彼に充てがわれていた部屋も、覗けば今まで誰も使っていなかったのではないかと思える綺麗さだった。もちろん、押入れを開ければ誰かが使っていた事は明らかなのだけれどね。
主は本当に、なぜ彼が居なくなったのかわかっていないようだったし、短刀達や先の二人も如何して、と認めたくないようだった。
期待を持たせるような態度を取っていた大倶利伽羅にも責任はあるだろうけど、彼は押しに弱いところがあるのを精一杯利用していたのは他の刀剣達だ。それを指摘したらどういう反応がくるか興味があったけど、そんな事をしたらまず殴られそうだからやめておいた。別に進んで痛い思いをしたいわけじゃないし。

しかし、僕らの問題は大倶利伽羅ではなく主の事だ。甘やかしすぎたかもしれない。
件の大倶利伽羅を拾って、それを手入れして。そこまでは良かったんだ。ちょっと欲が出てしまったんだろう。人間の悪いくせだ。前の本丸で問題があったから、経営者を疑うのは当然の事であるとしても、大広間で、大多数の前で大倶利伽羅が慕っていた経営者を侮辱し、彼を激昂させたというのに、この本丸の刀剣になって欲しいなどと言っていた。
とても愚かでおこがましい。だけどその愚かさが愛おしかった。そうやって彼女を是としてきた僕らにも責任はある。
今まで問題なくやってきたから、問題のある本丸対処の支援に選ばれたのだけれど、預かっていた刀剣に逃げられたと知られれば、政府からどんなことを言われるかわからない。
ううん、頭がいたい。
そろそろ過ぎた事は置いて、今やらなきゃいけない事をやらないと。この本丸には大倶利伽羅だけしかいないわけじゃないんだから。

「ほら、そんなに取り乱してちゃあ、本丸の空気も悪くなるだけだよ。しっかりして、やるべき事をやらなきゃ。君は僕らの主だろう? しゃんとして、胸を張って。上に立つ者は、あまりそういう姿を見せちゃいけない」
「うん、青江の言う通りだ。大倶利伽羅の事は残念だけど、彼はまだ君の刀剣じゃなかったんだから、気に病む必要はないよ」
「で、でも……」
「やるべき事は沢山あるんだよ、主。まずは、そうだな。ゲートを使った形跡があったんだろう? その履歴を調べてみるとか、あの担当君に連絡をしてはどうだろう」

流石、初期刀君は違うね。
主もきゅっと引き締めたみたいだ。良かった良かった。
……気持ちの事だよ?

prev / next