刀剣 | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -


▼ 審神者マンの霊力の乱れ

「お、オヤジーーっ!!!」

目の前でぶっ倒れたこの本丸のボスを前に、叫ぶことしかできなかった。





朝起きてぐうっと伸びをする。ばきばきと体の骨が鳴った。おや、と思う。着ていた服が見当たらない。辺りを見回すものの、寝ている間に脱ぎ散らかしたというわけでもなさそうだ。いつもはまだ寝ているはずの日本号や御手杵もおらず、首を傾げる。とりあえず、と買い与えられていた作業服を着ようとするが、なぜか縮んでいて体が入らない。仕方がない。適当に同じ場所に入れてある、他人の服を引っ張り出して着用するが、今度は大きすぎて袖や裾が余る。ぐるぐると捲って動けるようにし、とりあえず他の人に聞いてみることにした。もしかしたら脱ぎ散らかした挙句実は汚れていたからと、洗濯に持って行かれた可能性だってあるのだ。
しかし、そういう時に限って誰とも会わない。物干し竿が設置されている庭へも行ってみるが、まだ洗濯中なのか何もかかっていなかった。
そして、漸く見つけたのがボスだったわけだ。

向こうからふらふらっとやってくるこの本丸のボス、さにわ組の組長、審神者がやって来る。朝起きた時から無かった俺の服を、もしかしたらボスが知ってるかもしれないと尋ねたのだが、ボスは俺を見るたび比企? と不思議そうにこちらを見る。ひきの。最近俺に付けられた名前、いわゆるここでのコードネームである。因みに前までは二振り目とかちびとか呼ばれていたし、今もそれで定着してしまっていて、正式なコードネームを呼ばれることはほぼない。というか基本ボスだけだ。
このコードネームをもらう時、お前の名前なんだ? って聞かれたんだけど、思い出そうとしても思い出せなかった。ごめんな父さん母さん、せっかく頑張って名前考えてくれたのにな。そういう話を聞いた記憶はあるから、申し訳ない気持ちがあるんだ。だけど、この体はあの名前の体じゃないんだよなあ。この体でもし家に帰っても、あらどなた? て言われる可能性もある。帰れないのだ。ならば、俺は比企として生きなければならない。
というか、そもそも俺は人間じゃ無かったらしい。切実に森で目がさめる前を思い出したい。だっていつの間に人間辞めてたのか気になるじゃん。俺が刃物の神様で、あの時めちゃくちゃ邪魔だった棒こそが俺だというんだ。俺、本体で魚めっちゃ刺したけど大丈夫か?
それに、俺たちとうけんだんし、刀剣男子って漢字かな。それは人間の過去、現在、未来を守るため、タイムマシンで過去を変えて世界を作り替えようぜっていう悪い奴らと戦う戦士らしい。かっこいいじゃん。戦えなさそうだけど、俺。だってみんなは本体? を振り回して戦うんだぜ、水の中で突くことはできるあの棒、振り回すなんてできない。持ち運ぶのだってクソ重たいのに、それで敵を殺せ戦えってのは無理だ。大人しく大きくなるのを待とう、とか言ったら俺神様だから? これ以上大きくならないんだってよ? 詰みました。

そうそう、実はさにわ組ってのは大きなくくりの一つで、他にも沢山いる。エンレンに行った時はめちゃくちゃビビった。同じ顔がいっぱいだった。刀の神様の本物が、コピーアンドペーストしてちょっと扱いやすい神様にして人間の手助けをしてくれているんだそうだ。クローン技術とかやってらんねえ。どんな技術有してやがる。あまりにもでかい組織に所属してしまった。だってこのマルヤさん、日本政府と繋がってるとかいうんだ。そりゃそうか、世界を救うんだもんな。
デカすぎかよ。
逆らわない方がいいって俺はその時思った。肝に銘じた。俺の知らないところで、色々と暗躍してるんだなあ。
ていうかエンレンで、行方不明になってた高校時代の友達が居たんだけどあれはどういうことだ? あいつは神様を従えてたから、マルヤに入った幹部みたいな立場なのか。怖い。知り合いだとバレないようにしてたけどこっちめっちゃ見てたんだよな。すげえ怖い。もう会いませんように。そもそも俺、あいつに殴られたりしてたんだった。いやじゃれあいなんだけど。

よくわかんないけど、つまりこうだ。
俺たちは刀剣男子といって、クローン技術で産まれてきた。刃物に心臓とリンクする何かが埋め込まれている。爆弾か何かかな。逆らわないようにするためなんだろうなあ。同じ顔ばっかりだし。それをなんとか気分を良くするために神様って呼んでる。俺も本当は御手杵と同じ身体になる予定だったけど、なんでか、幼い身体になってしまっている。実験じゃねえかなーって俺は思ってる。別の体から脳とかを移植して、どれだけ小さな身体でも耐えられるか? ってやつだな。それで、その神様を使って、テロリストを殺して回れって日本政府とグルになって暗躍してるわけだな。映画みたいで面白いじゃん、いや、俺の前の身体は!? ってなったけど、こんなダークサイドまっしぐらなんだ。多分もう無さそうだし、喚いたら家族とかに害が行くかもしれない。もしかして脅されてたり? というわけで、俺はどうにか生きているぞよ。元々楽観的な男だったんだ。

そうだよ、ひきのだぜ! って答えてみたら、ふらっとボスが背から倒れてしまった。えっ、どうした!? 慌てて彼の元に走り、抱き起こす。頭を打ったらしくて意識がない。マジ大丈夫? どうしよう? 誰か来ない?
ずるずるボスを引きずりながら廊下を進む。ととと、軽い足音が聞こえてそちらを振り向いた。いまのつるぎくんだった。神様に感謝した。ねえ誰か大きな人連れてきてくれない? ボスが倒れちゃったんだよ。
ありがとう! ところでいまのつるぎ、縮んだ?

「ふたふりめがおおきくなったのです」

えっマジ?





結論を言う。
ボスは熱を出していた。俺は大きくなっていた。マジだった。御手杵の横に立ってもちゃんと胸の位置くらいまで身長がある。戻ったぞお、おかえり俺の身長。測ってみたら生前? 前世? とりあえず男子高校生だった俺と身長は同じだった。やったーありがとう本物の神様。
いしきりまるさんが帰ってきて、俺を見ておやおやおやってずっと言ってた。そしてボスをみてへえって言った。
いしきりまるさん曰く、ボスが熱を出したことで霊力の流れが乱れ、特殊な俺がモロに影響を受けてこうなったらしい。成長したわけじゃねえんだな? くやしい。何言ってるのかこれっぽっちもわからなかったけど、つまりボスが健康になれば俺もまた子供に戻るってこと。最悪だ。神様、さっきの感謝取り消します。

「折角デカくなったのに……」

その呟きを聞いた御手杵がまあまあと俺の肩を叩く。ええい俺も本当はその身体になるはずだったんだもっと背が伸びる予定だった俺にお前からの慰めは不要ッ!悔しさしかない。

「……オヤジ……いや、主。早く元気になってくれよな。確かに俺は残念だけど……あんたの方が大事なんだからな」

俺は今、あんな小さい子供じゃない。ちょっとは兄ぶってもよかろう! とりあえず、今だけはかっこ良く振る舞おうかな。あっそうだ、本体もしかしたら振り回せるかもしれない。よし、そうと決まれば善は急げだ。俺の心臓はどこだ。道場で振り回そう!





槍を振ろうとして結局振れず、筋肉足りねえんだろうなって思いながらとりあえず持ち上げていたところ、解熱剤を飲み、とりあえず霊力の流れを安定させたボスのおかげで、俺は槍に潰された。笑う御手杵は蹴った。


prev / next