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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -
 
一人の少年が自分の体を見回して、ぐるりとその場で回転する。

『調子はどうだ?』
「……視界は低くて狭いしスキャンも出来ねえ、小回りは利くけど体力はないし、走るのも限界がある。……やっぱり人間ってのは不便なんだな」

少年の瞳は澄んだ青色をしており、脱色された毛髪が電灯の下で銀に光る。服装は至ってラフなTシャツとジーンズだ。

『多少の不便は目を瞑ってくれ』
「ああ、構わねえよ。ちゃんと元に戻してくれるんなら」
『勿論だ。……さあ、彼を呼ぼうか』



散々な仕打ちを受けていたにも関わらず、軍医の呼び出しに渋々と応じてくれる彼は、本当に人が好いのだなと感心する。そして彼の感じていたであろう嫌な予感は見事的中し、彼の手の上には今、一人の人間――先程の少年である――が乗っていた。
正確には人間ではなく、軍医の手がけたアンドロイド、つまりはロボットなのだが、先日の彼の名台詞、「人間の形をしていればそれはもう人間である」というものから推察するに、彼から見ればそのアンドロイドもまた人間なわけで。

『動くな! 良いな動くなよ……うぇっ気持ち悪い……』
「聞こえてんだけど」
『その形なのが悪い』

それでも彼が比較的友好的であるのは、これを動かしているのがオートボット戦士のサイドスワイプであるからで、軍医曰く魂を移し替えたという。大丈夫なのか、と聞いてみれば、保障はできないがねと返され、ついでだから本体が大人しいうちに、点検とリペアを済ませたいと、軍医はリペアルームに閉じこもってしまった。因みにこのアンドロイド、地球にはオーバーテクノロジーなのだから使用後は破棄するぞ、とは軍医のお言葉である。

「なあTF」
『なんだよ』
「そっちに寄っても」
『止めろ来るな寄るな大人しくしてろ!』

手をめいっぱい自分から離して距離をとるTFに、若干寂しくなったのかそろりと少年が立ち上がる。
しかし人間嫌いの機械生命体は全力で近付くことを拒否した。
ともなればサイドスワイプはぐっと妙な表情を作り、親友の名前を呼ぶ。

「……TF」

その声は酷く哀しげで、名を呼ばれた彼はびくりと体を震わせた。そうして器用に表情を組み替えて、ぶおんと大きくエンジン音を響かせて排気する。

『………………好きにしろ』

言いにくそうに目を反らし、たっぷりと時間をかけてやっとそれだけを吐き出した。少年はぱっと明るい表情を見せながら、ひょいひょいと彼の腕を移動する。肩に到着するやそこに腰を降ろして、ぎゅっと頭に抱き着いた。
そして抱き着かれたその巨人の体中からは、ぎゅるぎゅるとなんとも耳に痛い駆動音が響いていた。