(レスキュー車、男性)
貴様、と主が荒々しく叫ぶ。聴音回路が拾う言葉は激しい怒気を孕んだ暴言の数々で、それはメモリーに一つ一つ刻まれていく。
硬質な、金属同士のぶつかる音と、ぎゅるぎゅると内部機関の悲鳴を聞きながら、申し訳ありませんと何度目かの謝罪を口にした。
『虫けらを助ける暇があるならこの惑星のエネルギー資源を探せ、この愚か者が!』
尤もな意見だった。他人を助けるより、まず自分の命を助けてはどうだとこの前も言われたばかりだ。そんなに他人を助けたいのならこの俺を助けてはどうだとも言われたか。
神経回路は遮断してあるために痛みを感じることはないが、故に起き上がることはできない。漏れるエネルゴンと弾ける青白い火花を見て、重傷だなあ、と関係ないことを考える。
『助けてやった恩も忘れたか』
ああ、そんな、とんでもない! 無理に神経回路を繋げて上半身を起こす。激痛が走るが、そんなことは今の問題の前では酷く瑣末なもの。
『この命は貴方のものです、メガトロン様』
諦め棄てたこの命を、気まぐれに掬い上げたのは目の前の破壊大帝。呵責に耐え切れず潰れたこの身に、手を差し延べたのは他でもないこの方だ。
命と目的、生きるためのものを全て分け与えてくれたのだ、この掬われた命を捧げ、燃え尽きるまで彼に使い潰されるのが道理だろう。故にそれは、元の仲間から見れば裏切りという形になってしまったが、後悔はない。
『今一度、私にお慈悲を!』
下半身がエラーを訴えて動かず、それでも這って頭を下げる。
『……良いだろう』
ぐいと顔を掴まれた。赤いアイセンサーと己のアイセンサーが交わる。
『人間共を殺せ。そしてオートボットをおびき出し、一体でも構わん、数を減らせ。良いな』
頷いた。
仕様がない、人間達には申し訳ないが、私のために犠牲になってもらおうじゃないか。
『仰せのままに、閣下』