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「#幼馴染」のBL小説を読む
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- ナノ -
 
大分体力を消耗していた。
何があったわけでも無いのに、だ。いや、確かに気分は悪い。自分の体は未だに忌ま忌ましい有機生命体のままなのだ。けれどもこの体のせいで、嘔吐することはなくなった。
慣れたのだ、残念なことに。
今いる場所は見知った格納庫の中であることは確認済みであったけれど、自分を仲間が認識してくれるとは思っていない。
何故此処にいる、どうやって入った、等と問い質されるのが落ちだろうから、早くこの場を離れたいのだが、如何せんどう出るかを自分は知らない。
いつもはシャッターが開けばそこから出てしまえば良いのだから、人間に関係することなんて全く関心を寄せることもしなかったのだ。今でこそ少し失敗したかと思いもしたが、後悔はない。そして、何故奴らに関心を寄せねばならないのかと思い直した。
不意に轟音が聞こえ、反射的にそちらを向いた。ビッと鋭い痛みが頬に走る。ガラガラと崩れた壁の一部で頬が切れたらしい。脆いその体に苛立ちが募る。
ギュルルと機械音が聞こえ、壁から視線を移す。視界いっぱいに広がる金属の塊、見上げてみれば赤と青の塗装が施された装甲が見えた。司令官、ごく小さな声で呟いた。

『……君は』

それに気付いてこちらに顔を向ける司令官は、はっとして自分を掬い上げる。
大きいと素直に思った。そして、体内のどこかにある芯から沸き起こる感情に顔を歪める。人間の体は、意志と本能が別物であることを主張する。

『ここは危ない。しっかり掴まっていろ!』

バン、と司令官はシャッターを壊して外へ飛び出した。
持ち上げられた視線の先に、複数の人間を見る。それらは一様に何かに向けて発砲し、また薙ぎ払われて宙を舞った。
ひゅうっと息を吸い込んだ。複数いた大きな金属の塊の一つが、こちらへその目を向けたのだ。ぞわりと芯が震えた。白く発光するその目はじっとこちらを睨み、人間、と言葉を発する。そして金属の手を伸ばし、司令官の腕を掴む。放り出された自分は放物線を描いてべしゃりと地面に背を打ち付けた。息が詰まる。
ちかちかと瞬く視界のままに、無理に目を開いて飛び込んできた光景は、あの白い目の脚だった。
逃げろ、と聞き慣れた低い声が響き、ああ、そうかと目を閉じる。人間はこういった恐怖を常に感じながら、戦っているのだ。



『TF!』

回路に叩き付けられたそれを己の名前であると判断し、飛び起きる。目についたそれを掴み倒して腕を組み替え銃口を突き付けた。

『TF』

優しい声音で再度名を呼ばれ、大きな手が頬を撫でる。

『よく戻った』

組み敷いたそれが敬愛する司令官であり、自分の体が有機生命体のものでないことに漸く気付いて腕を降ろす。スパークがきつく締め付けられた気がした。