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- ナノ -


◎隻脚の男


どなてろ。

最初に異変に気付いたのはラファエロだった。日課と成りつつある夜警で、いつものルートを回り終え、さて家に帰ろうかという時だ。何か音がするとそちらへ走って行ってしまって、僕ら三人顔を見合わせてからそれを追った。背の低い建物のふちで、ラファエロは目下の道を睨んでいて、何事かと横に立って覗いたミケランジェロがあっと声を上げる。兄ちゃんだ、と。
僕らの家族構成は複雑だ。父親であり忍術の師のスプリンター先生はネズミのミュータント、僕ら血のつながりがあるかわからない四兄弟は亀のミュータント、数年前に先生が拾ってきた人間で元軍人の兄が一人の六人家族。僕らは先生と幼い頃から一緒だったけれど、兄はまだ数年の付き合いで、最初は僕らも反発がひどかった。彼はずっと穏やかに微笑んでいてくれたけれど、実際どうだったのかはわからない。それでもみんな彼を兄と呼び、無防備に寝顔を晒す程にはなっていた。そう、僕らは兄を大切に思っていて、彼も同じ思いを持っているはずだ。
僕もそろりとふちから下を覗く。大勢のクランゲに囲まれて、それでも兄は奮闘していた。一人を倒して銃を奪い、それを使ってまた一人地面に寝転ばせる。暗くてあまりよく見えないけれど、苦しそうな表情をしていた。すっと隣で刀が抜かれる音がする。それに合わせて鎖の音と風を切る音。きっとみんな同じ気持ちなのだ。兄がクランゲに撃ち抜かれてふらと姿勢を崩した。ブチリと嫌な音がして、隣に視線を投げたけれど、兄弟の姿は見当たらない。ふうっと息を吐いて、自分も背中の棒を引き抜いた。三人とも頭に血が上っているから、僕が冷静にならなきゃいけない。あんまり自信はないけれど。

「どうしてあんな無茶をするんだ!」
レオナルドがきっと目尻を吊り上げる。ミケランジェロに包帯でぐるぐる巻きにされてしまったのを巻き直しながら、兄の姿を見た。レーザー銃のおかげて出血はあまりなかったけれど、銃槍のせいで綺麗な刺青が台無しだ。いや、前から削れてたりしてたけれど、それでも綺麗なままだったのに。
「そうだよ、ボク達にちゃんと連絡してよ! そのためのTフォンなんだよ!」
ぷうっと頬を膨らませて、怒りを表すのは末弟のミケランジェロだ。兄の腹から腕を回して逃がすまいと抱きついている。羨ましいと思ったのは秘密。
「どうせ置いて外に出てったに決まってんだ。そういう奴だぜ。俺らは要らねーってよ!」
少し離れた壁に背を預け、腕を組んで不満を全身で表現しているのがラファエロ。最後まで兄の存在に反発していたのに、今では一番彼を家族として認めているのも彼だ。
「……どうして一人で戦おうとしたの」
腕の包帯を巻き終えて、僕も兄を睨んでみる。
兄は少し言い辛そうに視線を落として、ミケランジェロを撫でた。何度かそのまんまるの頭を手が往復して、それから僅かな声で彼は呟く。
足が、欲しかったんだ。
ぱちりと全員が瞬きする。足?
兄は傷痍軍人だ。戦場で右足を失って、退役軍人となった。今は銀に輝く金属の足がそこにはまっている。それなのにどうして今更足なんて。
「俺は……ずっと迷惑をかけて来ただろう。お前達と違って金のかかる人間だ。だというのに何もせず、のうのうと与えられるがまま生きて来てしまった……! 本来なら働いて返すべき恩だ。少しでも役に立つべきなのに、俺は、何も、すまない、俺は生きる価値のない男だ……!」
退役軍人。彼を迎えた時に調べた単語だ。よくある事例、PTSDと呼ばれるもの。戦場で感じた連帯感や、常にある緊張状態のせいで、平和な生活とのギャップに苦悩する。この世に必要な人間じゃないのではないか、と自身の生を疑うこともある。ずっと穏やかに僕らを見ていてくれていたから、僕らはそれを感じる事すらなかったのだ。
「違う、違うよ兄さん!」
包帯を巻く手をとめて、空いていた手を握る。
「僕らは兄さんが居てくれるだけで幸せなんだ、思い詰めないで、仕事なんて五万とあるから。一緒に探そう、ね」
レオナルドもミケランジェロも、どう声をかけて良いのかわからずに、彼の体に触れて、また抱き締めるだけ。頑張れとか大丈夫とか、そういう言葉はあまり良くないってこと、ちゃんと僕らは勉強したんだ。
「俺達がいる、兄貴、俺達がちゃんとそばにいるから」
ラファエロも彼の肩に手を置いた。兄は静かに頷いて、有難うと言葉をひとつ、僕らへ落として目を閉じた。



足を僕が作るよって言わないのはそれが正解じゃないってわかってるから。
タイトル打つのが面倒になってきたり。
もし有る程度溜まってきたら、加筆なり修正なりしてサイトの方へアップしたいっすねえ……


09/24 16:30


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