「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
×
- ナノ -


◎隻脚の男


クランゲへ熱烈な愛の告白(語弊

律儀にマンホールを開けて出てくる四匹の亀を目の端で確認し、またこちらに気づいていないことに安堵して自分はゆっくりとその場を離れた。
地上へ出る許可が降り、同い年くらいの少女が彼らの住処へ出入りするようになってから、会話に現れるクランゲという存在がどうしても気になって仕方がなかった。
いわゆるオーバーテクノロジーの産物であるロボット、その腹に収まる地球のものでない生き物。きっと祖国が欲しがる産物だろうと簡単に想像できる。そうして同時に、自分の右足に意識が向かってしまうのだった。
奴らをひとつでも捕まえることができれば、このどうしようもない金属の足が、漫画の世界のような、筋電の力で指先まで動くような義足にかわるかもしれない。それは僅かな微光であったが、自分にとっては絶望の中に漂う唯一の希望でもあった。
退役してからもう数年、何もできず生きる価値すら無いという思いに苛まれ続け、しかしながら未だのうのうと生き永らえている自分から、解放されるかもしれない。じっとしてはいられなかった。
彼らの会話から聞き取れた情報から、どうにかして現れそうな場所の見当を付けてはその場所を張る。何度もトライしては外し続けて、多少疲弊して来たけれど、諦めるわけにもいかなかった。
けれど漸くそれが報われる。
ワンブロック先に留まるトラックの荷台へ、何かを運ぶスーツの男達。一見して夜中の引越しのようにも、また危ない取り引きのようにも見えるその現場。きっと誰もが興味を持たずに通り過ぎるか、怖がって近寄らないだろう。しかしそれは、スーツの男達の顔が、全て同じでなければの話だが。
ごくりと喉を鳴らした。あれを一体、回収出来ればいい。ついと空を仰ぐ。ビルの壁と暗く濃い青い空。あの新しい家族、生きても良いと許しをくれた優しい親子の姿は見当たらない。好機だった。彼ら、夜警をする亀の姿の弟達に見付かれば、きっとすぐにでもあの地下の家へ連れ戻されるだろうから。
スーツの男達の荷運びが終わり、荷台の扉が閉められる。二人が運転席へ向かうと、数秒後にはエンジンがかかった。残った二人が後部ステップに足をかけ、側面のバーを掴んだ。今だ。そのトラックへ走った。一体を掴み、引き摺り下ろす。エンジンの罹ったトラックはそれに気付かず、いや、気付いていたとしても時既に遅し、だ。彼らは強制的に降ろされた一体を残し、その場を離れてしまった。
「仕事中に悪いが、お前の体、貰い受ける」
「何が目的かは知らないが、我々は警告する。我々の邪魔をするものに容赦はしない」
「目的はお前の体……いや、足だ。お前達の仕事の邪魔をしたのは本当に申し訳ないが、こちらもなりふりを構ってはいられなくてね」
すっと男の手がこちらへ差し出される。伸びた彼の指先が、きらりと輝く。音は無かった。咄嗟に身を引いたが対応は遅く、右腕に熱さを感じ、すぐに激痛が全身を貫く。
指先から黒煙を上げるスーツの男の瞳が煌々と光っていた。
聞いていた通り、やはり人間では無かった。
激痛は体を走り続けるが、気分は益々高揚して行った。久々に死の世界が隣に有るのを感じ、痛みを感じ、心臓の鼓動を耳に聞く。血の混じったものの焼かれた臭いが鼻を掠める。そうだ、これだ。今までずっとこれらを感じて生きて来たのだ。
ああ、俺は生きている。
もう、足のことなど何処かへと飛んで行ってしまった。足ではなく、自分は最初からこれを望んでいたのだろう。
「お手合わせ願おう、異星人。俺が勝ったら、お前を頂く!」


09/24 01:42


mae top tugi