「#幼馴染」のBL小説を読む
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- ナノ -


◎隻脚の男


ラファエロによる。かけあし。

認めるわけにゃいかねえ。
先生の決定だったとしても、だ。
そういう態度を俺は頑なにとっていた。だけどあの野郎と同じ場所には居たくなくて、ドナテロを置いて出て来ちまった。一応先生が認めた男だから何もしねえとは思うけど、だからって置いて来たドナテロが心配にならないはずもなかった。
その点ミケランジェロはヤツにすでに絆されてて信用出来ねえし、レオナルドは先生と一緒でなに考えてるかわからねえ。ドナテロを置いて見回りに行こうみたいな事を言い出したのもレオナルドだった。
ミケランジェロはまだ話し足りねえみてえだったが、今回は珍しくレオナルドが引きずって行ったし、俺もちょうどよかったから着いて来たんだ。
下水道を通る風が、目の前の男のマスクで遊んで行った。ひらひら翻るそれが鬱陶しくて、ぎゅっと掴むと、持ち主のレオナルドがこっちを振り向く。なんだよラファ。いつもの済ました顔。いつもはもっとわかりやすいはずなのに、本当、今は何考えてるのかわかんねえ。
後方で何かやらかしたらしいミケランジェロの叫び声に救われて、マイキーが、なんて言葉を発すると、レオナルドはふうっとため息をついた。
「マイキー」
あたかも遠くにいるペットを呼び寄せるように、優しい兄貴の声で末弟を呼ぶ。ワアワアといつものように騒がしくまくし立てて、どたばたとこちらへやってくるのを見て、俺も視界を覆った。少しは忍者らしくしたらどうなんだよ。
「どうした、大きな声で」
「どうせまた何か壊したんだろ」
「ちょっと! いつも物を壊してるみたいに言わないでよね! ラファじゃあるまいし! じゃない! 二人とも走って!」
そんなことを言いながらひゅんと風を切って弟は俺たちの横を走って行く。低い地鳴りのような音が聞こえて、ミケランジェロの走ってきた方向を見た。遠くから水が流れてくる。大量の、水。
「ああっ、そうだ、雨!」
あの片脚が金属の野郎と交戦した時から降る雨。増水の具合を見るための見回りだった。けどそれはついさっきの出来事じゃない。そこで原因を考えるけど、それに行き着くのは数秒だってかからねえ。
「マイキーッ!」
どうやったかは知らねえが、どう考えてもあの末弟の仕業に違いなかった。

全身びしょ濡れになって帰ってきた俺たちを見て、ドナテロは目を丸くさせた。どうしたの、と尋ねてくるけど俺はそれに答えず、部屋にタオルを取りに行く。ミケランジェロがぶるぶると頭を振って水滴を飛ばして、ドナテロが非難の声を上げた。レオナルドはいつの間にとってきたのか、既に真っ白なタオルで体を拭いている。
「マイキーがパイプのバルブを弄ったんだ」
「ちょ、ちょーっとだけだよ! 最初は上手くいってたんだけど手が滑っって」
とってきたタオルを肩にかけてから、ゴメンネ、なんて悪びれもなく謝るミケランジェロの後頭部を叩く。今度やったらただじゃおかねえぞ、とできるだけ低い声を出して脅すと、慌ててドナテロの後ろに隠れた。ドナテロがまた非難の声を上げる。ああ、濡れたままだっけか。
レオナルドが自分のタオルをミケランジェロにかけた。そのままわしわしと頭を拭いてやる。ありがとー、と可愛らしい笑顔を向ける末弟に、困ったような笑みを浮かべる長兄。全く甘え兄貴だな。
ふと、部屋を見回した。そういえば。
「おいドナテロ、あの野郎は何処に行った?」
「あの野郎って君ね……あの人はもうすぐ、あ、ほら、戻ってきたよ」
「おお、お帰り」
レオナルドの瞬きの音が聞こえた気がした。ミケランジェロも目をこすり、俺も目を疑った。声はあの野郎の声だったが、容姿はずいぶん変わっている。
伸ばし放題だった髪と髭がすっかり刈り上げて整えられ、薄汚れていた全身はこざっぱりと綺麗になっている。着ている服もあの沢山の布を巻いたような汚れたものではなく、見慣れた小豆色の着物だ。
「すいませんミスタースプリンター。服は直ぐに用意します」
「ああ、構わんよ。しかし、少し君には不恰好だな」
「ハハ、流石の和服もこの顔には似合いませんなあ」
和気あいあいとする尊敬する師であり父親と、気に食わない新入り。その上揃いの着物を着ている。ふつふつと込み上げるのは怒りだった。気に食わねえ。気に食わねえ!
腰からサイを引き抜いて飛びかかる。このサイのサビにしてやる!
家族の叫び声が聞こえたが構っちゃいられない。こんな不穏分子、さっさと追い出してしまえばいいんだ。
けど、次の瞬間には、俺は天井を眺めていた。
「は、」
「空中からの攻撃ほど隙があるものもないんだぞ……ラファエロ?」
間近に見えるその男の精悍な顔、筋骨隆々とした逞しい肉体。着物の合わせから見えるのは男の浅黒い皮膚の色だけではなく、金属の脚が床を僅かに削る音が聞こえる。
負けたのだ、この、大きな新入りに。
ワッとミケランジェロが歓声を上げ、つられてドナテロも凄いと呟く。レオナルドも感心したように息を吐いた。
「あ、と、立てるか?」
「馬鹿にすんな! 立てるッ!」
差し出された手を払い除け、自力で立ち上がった。
ああ、クソッ! 気に入らねえ! 絶対え認めてやるもんかよ!


09/19 19:36


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