BLコンテスト・グランプリ作品
「見えない臓器の名前は」
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- ナノ -


◎隻脚の男


ドナテロによる、

「ああ、なるほど、だからか」
その人がこの家をぐるりと見回して、納得したように言葉をこぼした。
「……何か、わかったんですか?」
ぎこちなく尋ねた。兄弟は下水道の見回りだとか言って、僕を置いて行ってしまった。部屋に篭っていろんなことをしたいけど、どうしても彼が気になって、彼が見える場所で出来ることをする。
「君は、そう、ドナテロ」
僕のぎこちなさを感じていながら、その毛むくじゃらの男の人はゆるく笑った。あっているかな、という問いにも、うまいこと返事ができなくて、モゴモゴと口の中で転がった、はっきりしない返答をする。
「さっきの問いだな。ここら一体、結構住みやすい地下道が有るのに、どうして誰も寄り付かなかったんだろうって思っていたんだよ。でも君たちを見て納得した。都市伝説があってね、下水道には巨大な白いワニがいるって。ワニじゃあなかったが、なるほど、君たちも気弱な俺の仲間には怖いものに見えたのだろうなあ」
ククと喉を鳴らして、彼はいたずらっぽく笑って見せた。
新しい家族。先生はそう言って彼を迎えた。
余りにも唐突な決定、僕らの意思なんて全く関係ない。
確かに僕らはまだ15歳で、まだまだ人としても未熟だし、先生の決定は絶対だ。だけど息子達の意見も聞いてくれたって良いと思う。いきなりよくわからない人を連れて来られて、新しい家族だよ、なんて言われてもはいそうですかって納得できるわけがないんだ。犬や猫じゃあるまいし。
でも、だけど、彼が悪い人間だとも思えないっていうのも事実だ。先生に頭を下げた時の声とか、少し前に僕らの末弟、ミケランジェロを懐柔した時の、優しい空気とかがどうしても忘れられないんだ。
その時の言葉はまだ頭に残っているし、そのあとミケランジェロにねだられて話していたものもちゃんと覚えている。僕らの名前の由来。有名な芸術家達の名前。勿論僕はそんなこと知っていたけれど、彼の口から出る言葉の数々はなんだか丸く温かみを持っていて、自分の名前の時はむず痒く照れ臭くなった。
一通りの説明を終えたところで、おずおずとレオナルドが信心深い人なのだなと呟いた。そうなるのかな。神とか、御使いとか、そういう言葉はよく使っていたけれど、そういえば僕はそういう方面はまだきちんと調べたことがなかった。
「君はワニ、見たことあるか?」
「えっ、な、ない……けど」
「そうか」
彼はすっと満足そうに目を閉じた。だけどすぐに目を開いて、すきとおった両目がこちらを向いた。電気の光できらきらしたその人間の目はとても綺麗だ。
ところで、と彼は言葉を続ける。
「ミケランジェロに俺は臭いと言われてしまったんだが、バスルームは有るかな?」
髭剃りなんかも有ると助かるんだが、なんて言われて、髭剃りは無かったと思うけど、と素直に応えると、なんだそうか、と残念がられてしまった。
そんな表情を見せられて、天才の僕の腕が唸らないわけがなかった。


09/19 18:14


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