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- ナノ -


◎隻脚の男


ミケランジェロくんによる隻脚の男

ボクはその人に興味があった。お兄ちゃん達はどうも警戒心が強過ぎるみたいで、新しい家族を受け入れられないみたいだったけど、ボクは先生が家族にしたんだからそれに文句は全く無い。先生と同じくらいの年なのかなあ、だったら第二のお父さん、または叔父さん、もしかしたら大きなお兄さんになるかも、なんて兄弟に喋ってたら、すごく怖い目で睨まれた。
頭の堅い兄たちは、先生がどうしてあの人を受け入れたのかとか、敵の罠なんじゃないかとか、今考えても仕方ないことばっかり。そんなのその時に考えたら良いのに。でもボク、あの人は絶対悪い人じゃないと思うんだ。だってそもそも悪い人なら、一番最初に戦った時ボクたちを殺そうとするはずだもんね! なんて言ってみるけどそういうのは理由を考えてとってつけただけ、悪い人じゃないっていうのは、単なる直感ってやつ。でもボクはそれを大事にしたい。なんかちょっとかっこいいしね。
「ねえねえ、そういえばなんて呼んだら良い? お父さん? 叔父さん? お兄さん? みんなみたいにニックネームでもいいし、なんならボクが名前つけたげるよ! あっでもやっぱりお父さんはダメ、ボクらのお父さんは先生だもんね!」
新しい家族。ミュータントじゃない生身の人間。ボクらが知らない地上を、国を、世界を知る人。
「好きにするといい、俺はお前のお父上に拾われた身だ。そうだな……俺はもう君たちのお父上に師事することもないだろうが、学ぶことになるなら弟弟子になるなあ」
ふふ、とその人はいかにも自分の言ったことが面白いといったていで笑った。ずっと家がなくて、ずっと下水道の暮らしだったから随分薄汚れていたし、髭も髪もだいぶ伸びていたけれど、その真っ黒な膜の下の優しい顔が見えた気がした。
「君は確か、あの素晴らしい芸術家の名を戴いていたな。あの美しいピエタ、美しい天井画、是非一度この目で見て見たいものだ。君もその名の持つ意味を知るといい、ミケランジェロ。無邪気で優しい、天上の子」
ぱちぱちと瞬きをした。兄達の会話も途切れていた。ふわふわと暖かな空気がボクを包んで、体の芯かぽかぽかと微熱を帯びて行く。
そんなこと、言われたの初めて!
「ねえ、ねえねえ! もっと教えて!」
彼の座る椅子の隣に勢い良く飛び移った。ぼすんと音がして、彼が小さく跳ねたけど、嬉しさとか、もっと知りたいって気持ちが弾んで、なんだか楽しくなってきた。もう一度立って、ぼすんと椅子に座る。
「ああ、勿論良いとも」
彼の優しい声が空気を柔らかくする。ほらね、悪い人なはずない!


09/19 16:19


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