「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
×
- ナノ -


◎×創作


※前の続き、食人行為

真田に成って幾日か後、真田に身体を返したと思ったら、自分は起き抜けに真田の顔を視界に映していた。数回瞬きをしたあと、あれ、と声を上げる。目が覚めたら、研究員か、医師の顔が見えると思っていたのだけれど。
「お早う御座います!」
そしてかけられたのはそんな言葉だ。耳慣れない懐かしい日本語。懐かしい父母の記憶。どうやら布団に寝かされているらしい自分は何もかも懐かしい気持ちで、にこにこと笑う真田の腕を引っ張った。自分より幾分小さい彼を抱き込み布団を被る。そして宣言。
「もう少し寝る!」
「れ、蓮一殿!」

旦那が衣服や髪を乱してその部屋を出てきた時には心臓が飛び出たかと思いました。
その部屋にはいつの間にやら旦那が拾ってきた大男が眠っていて、彼を連れてきた時に旦那は、かの方は俺の恩人だ。疑うのは構わぬが、傷付ける事は許さぬ、と俺様に釘を刺してきた。そのせいで大男には何も出来ずにいるけれど、一体あの二人の間に何があったのか。
とにかく、柄にもなく酷く驚いて声も出せずにいた俺様を見付けて、旦那は難しい顔で唸った。鍛錬が足りぬようだ、と。詳しく聞いてみれば、寝起きの男に布団の中に引きずりこまれ、やっとの思いで抜け出たのだと言う。旦那を寝起きの状態で捕まえていられるのはよほど力が強いのかもしれないと疑惑が深まるが、それに目ざとく気付いた旦那が厳しい声で俺様の名前を呼ぶ。何もしない旨を伝えて屋根裏へ逃げたあと、やっぱり旦那はこうでなくちゃと、先日までのおかしな旦那を思い出していた。

国同士の小競り合いだと聞かされて、真田達がこの家から居なくなって数日経った。お客様はちゃんとおとなしくしてるんだよ、とあの世話ばかりかけた赤毛に言われていたので、誰かに呼び出されないかぎりはこの部屋でごろごろしていたのだけれど、腹が空いて仕方が無い。俺を普通の人間だと思っているこの家の人は、朝晩二食とお八つを俺に持って来てくれるけれど、俺はそれでは生きていけない。人間ではない、化け物の俺は、人を食わなければならないのだから。この世界で真田になって、久々に人間らしい人間の生活を体験してしまってから、この身体の不自由さに辟易している。味覚もほとんど無く、満腹感も味わえず、人を食べなければならず、そのせいで睡眠時間は増えるばかり。筋トレはきちんとやっているし、兄弟を殺す仕事もなくて、日本語にも囲まれた、実に平和な日常だと思う。だけれども、飢餓感は募るばかりだ。ああ、お腹が空いたなあ。

ぜいぜいと息を切らしながら、細い廊下を走る。形振りなぞ構って居られない。忍びだって人の子で、生きる為に恐怖を感じるのは誰だって同じだ。
簡単な仕事だ。簡単な仕事のはずだった。
真田幸村は小国との小競り合いで城を留守にしている。その隙に情報を集めて持って帰れとの主からの任務で、自分は上田に潜入していた。そこで見付けたのは六尺以上もありそうな大男だった。
あれくらいの若さで、大きさで、戦に出て居ないというのは考えられない。きっとこれが何か重要な情報を持っているのだと、何か大事な物を守っているのだと判断して、男の背後に降り立つ。苦無を首に突き付けて、情報を貰おうと腕を動かした瞬間だった。ぐるんと首がこちらを向いて、赤い双眸がこちらを捉えた。ぞわりと全身が粟立つ。
首だけが動いたように見えた。
「ここの忍者じゃないね?」
男は答えを待つことなくこちらへ大きな手を伸ばし、宙を彷徨っていた腕を掴む。
「ちょうどお腹が空いてたんだ。お前なら殺しても文句は言われないだろ」

後ろから足音が聞こえている。どれだけ全力で走っても、一向に小さくならない。
忍びの術を使う時間すら惜しい。早くこの城から出て、森の中へ、奴から少しでも遠くに。
不意に体が宙に浮いた。世界が回り、全身に衝撃が走る。視界が弾けて、真っ白になった。
「捕まえた!」


06/25 15:04


mae top tugi