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- ナノ -


◎武田孫と天女様


恐ろしく色気の無い悲鳴が頭上から聞こえたために空を見上げると、何やら人らしき物が重力に逆らえず、速度を増しながら落ちていた。これは地面に叩きつけられて確実に死ぬだろうと思い、ただ傍観に徹していると、自分の目の前に影が広がり始める。どうやら、目の前で破裂されるようである。あの速度からみるに、逃げる時間はもう然程なく、どんなに急いでも血肉に塗れるのは必至だった。息を吐いた。仕方が無い。自分は婆娑羅者であるのだから、少し位なら耐えられる筈だろうと、某映画の少年の様に両腕を前に突き出した。
ふわり。落ちてきたそれは正しく天空の城の冒頭の様に軽やかに自分の腕に収まってしまった。その直ぐ後にずしりとそれの体重がかかる。少しばかり色素の薄い、緩い巻き毛の少女の服装に眉を顰める。暗い色のタータンチェックのプリーツスカート、紺のセーターと左胸の校章、白いシャツ、控えめな深紅のリボンが胸元で揺れる。女子学生。
どくりと心臓が波打つ。二度と交われないと思われた同郷かもしれないその存在は、じわじわと身の内に熱を持たせた。彼女は、外に出る事が叶わない籠の中の鳥に、休息の為の枝が与えられたような、淡い救いだった。

五日だ。私は五日の猶予を貰った。
右も左も分からない、得体の知れない私を、優しく迎えてくれたのは誰でも無い、武田信勝という男性だ。彼は何も知らない私に一から物を教えてくれ、ここが私のいた世界とは別物だと理解した。過去では無い、並行世界。あの戦国BASARAの世界だ。お館様も、真田主従もこの目で見たし、婆娑羅技も見せて貰った。ゲームではメインキャラクターとモブキャラクターでしか分けられていなかった世界でも、当事者となってみれば様々な人が生きているのがわかる。ただ、やっぱり史実が捻じ曲げられているけれど。
そして、もう一つ。
優しいと思っていた信勝さんは、ド鬼畜だった。
「何度教えれば気が済む。鼠ですら物を覚えるというのに、お前は虫か?」
「ひ、酷い! 私だって頑張ってるのに」
「その体たらくで頑張っていると言うのか。何も失敗するなと言っとらんだろうが、私の要求は難しいか? 天女とはいえ、この武田に益を齎さない者を長く置く事は出来ん。寝食が欲しければ働け」
「ビエー! 信勝さんの鬼畜ー!」
五日の間に、間者の疑いを晴らし、女中の仕事を覚える。
道程は長かった。

若が女を拾ってきた。はした無い珍妙な着物を着て、訳のわからないことを喚く女。気の触れた女をこの武田に連れ込む若は一体何を考えているんだと、女の首に苦無を突き付けると、若がくつくつと喉を鳴らした。
「それを危険と見なすか、流石は真田忍隊の長だな」
嫌味だ。
若はこの女を危険ではないと判断している。
だが、自分は疑う事を生業とするもの。異常者が若を説き伏せてしまった事は、無きにしも非ずだ。女に刃を向けたままじっとしていると、ならばと若は笑って言った。
「五日やろう、猿飛。その五日で見極めるがいい。これが傾国か、武田に害を為すか否かを」
お前の決定に、我々は従おう。
「傾国は言い過ぎだな……あと益には成らんと思うが」
彼女を眺めながら、若はそう付け加えた。



天女傍観ってみんな傍観してないよねと思う


06/12 16:55


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