BLコンテスト・グランプリ作品
「見えない臓器の名前は」
×
- ナノ -


◎少年忍者と真田主従


旦那、と叫んだが一息遅かった。飛びかかる黒の手は鈍く煌めき、それは我が主、真田幸村の首へ迷いなく振り抜かれる。しかし、幸村は素早く身体を捩り、刃が吸い込む場所を首から肩へと変えて見せた。黒い塊がその刀を引き抜き、主の肩からは多くの赤が流れ出す。
カッと頭に血が登った。よくも。
腰の甲賀手裏剣を塊へ力の限り投げ付ける。それを、刀を持つ右肩に受けた塊は、勢いのまま後方へ飛んだ。鍔の無い練色をした柄の小刀が宙を舞う。主の方へ目をやると、驚いた表情で刺客を見ていた。彼と刺客の間に身体を滑り込ませる。
「済まねえ旦那! あんたに怪我させちまった!」
「構わぬ! 然程傷は深くない。其れよりも、」
「直ぐに始末して手当てするから」
「ま、待て! 佐助!」
手裏剣を肩に受けたその黒い刺客は案外小さく、むくりと起き上がり此方を睨む目は大きい。まだ育ち盛りの子供だった。目をすいと眇めて少年を睨み、殺気を彼に向けて放つ。しかし、少年は涼しい顔で手裏剣を引き抜き遠方へ放り投げ、次いで練色の小刀の鞘らしき物も地に捨てた。右手が動くのを確認し、腰に下げた二本の忍刀を抜いて構える。瞬き。目を開くと、目の前に少年の顔が見え、咄嗟に頭を庇って後方へ飛んだ。ヤバい、と心中で叫ぶと同時に腕へ重い衝撃が走る。手甲のお陰で切れる事は無くとも、じんわりと腕が痺れる。
「佐助、」
肩に手を宛て心配そうに此方を見る主が視界に見えて、ぐ、と眉間に皺が寄った。無様な姿を晒すわけにはいかない。ここで負けては彼の命に関わる。守らなければ。
痺れる腕に叱咤して、もう一つの手裏剣を構える。

左腕を踏み潰した。少年は目を見開くが、声は一つとして漏らさない。しかし、直ぐにすうっと表情を失くして、少年は足を振り上げる。飛んで後退してそれを避けると、少年はよろめきながらも立ち上がった。右腕はもう使えない、左腕も今潰した。
「それ以上何が出来るわけ? 降参しなよ、足は潰さないであげるからさ」
少年の目はじっと此方を見ている。何の感情も見えない其れに、背筋が凍った。少年が足を動かし、何かを空中に蹴り上げる。陽光で輝く其れは、練色の柄の小刀だ。少年はその柄に噛み付くと、両腕をだらりと垂れたまま腰を低くする。どうと強風に煽られてはっとしたその一瞬、少年は種子島の鉛玉の如く、忍び同士の戦いを見ていた赤い彼へ飛びかかった。

主に抱えられた小さな存在を睨む。彼は浅い呼吸を繰り返しており、眉間に皺が寄ったままだ。
「そう睨むでない。寝ている間は何もせぬ」
「あんたはお人好しが過ぎるぜ、旦那。何でまたこんな餓鬼……」
「その餓鬼にしては、中々の忍びだったではないか」
言葉が詰まった。確かに主の言う通り、この子供は稀に見る程の洗練された忍びだ。合理的に物を考え、痛みに声を上げることもしない。感情の一欠片も確認出来ず、殊更恐ろしかったのは、殺気が全くないことだった。どんな人物でも、人を殺すとなれば何かしら心が動き、覚悟し、殺意を持つ。其のどれもが感じられない。言うなれば、心が無いと同義だった。一体どんな修行をすればこうなるのか。こんなに小さい子供を、ここまで作り上げるのは至難だろう。
「佐助、俺は、これが欲しい」
「そんな事言ったってさあ、旦那を狙ってきたんだぜ」
「いや、もう決めた。これは俺が使う」
「ハァー、反対してもその考え変えないんでしょ。やんなっちゃうね、もう。お給金上げてくんないと割りに合わない!」
「うむ、わかっておるではないか。何、心配は要らぬ。危険が有れば、佐助、お主が俺を守るだろう? 信頼しておるのだ。……給金の方は考えておこう」
「恥ずかしいことをさらっと言ってくれちゃってさあ……」
「佐助」
「はいよ」
「この子供の里を探れ」
「了解っ」



手練れ感凄い死んだ魚の様な目をした少年忍者と真田主従
真田主従書きやすいんですゥ……
あと実は合理的にってところで、本当は右腕を切り落とそうとするシーン書こうと思ったんだけど入らず。
続き書くならそこにいれるかなー


06/11 16:30


mae top tugi