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◎武田孫


目の前に血まみれの人間が落ちて来たら、誰だって驚くだろう。この体が例えどれほど気配に聡くても、脱走した昼間の散歩で油断しきっていては、死にかけた男を察知するのも難しいと思う。
その人間は暗い色の装束を着ていて、直ぐに忍びであるとわかった。何時もならそこに捨てておくとか、止めを刺すとかする自分でも、どういうわけか今回ばかりはそんな気が起こらず、目線の煩い忍び達もいないものだから、この忍びを助けてやる事にした。

目を開いて、辺りを見回す。知らない天井にはっとして身を起こそうとするが、全身からくる痛みに、布団の上に体が落ちた。布団、と気付いて次に体を目視する。治療の跡だ。一体誰が。
「起きたか」
心地の良い低い声が耳を擽る。声の方へ目をやると、障子を閉める男の後ろ姿。短めの黒髪を後頭部で結い上げ、深紅の着物を着た彼は此方を向いた。まだ幾分幼い顔立ちの彼は、丸い焦げ茶色の瞳を愉快そうに歪ませた。
「私の名は武王丸と言うが、お前の名は聞かん。どうせ名乗れないのだろ」
幼い手が動けない自分の頭を撫でた。武王丸。最近聞いた名前だ。確か、武田の聡い子供。武田、そうか、自分は甲斐まで来ていたのか。
「お前の傷から見るに私のところの忍びがやったのではなかろうが、武田の情報をさぐりにでも来たか?」
「……いえ」
「お、口を聞いても良いのか。僥倖だな」
からりと柔和に笑むかの子供の噂は、全く寒気がする程だったが、本人を前にするとそれは嘘なのではと思えてくる。確かに子供がする様な表情を見せるが、それでもきちんとした子供ではないか。
「……任に失敗して、逃げて来たんですよ」
だからだろうか。うっかり喋ってしまったのは。
それを聞かされた子供も驚いたような表情を見せたが、次第に笑みを深める。こういう手の話はあまり聞けないのだろうから、好奇心が勝ったのだろう。
「抜け忍か! 私ははじめて見たなあ、おもしろい。腕は立つ様だが、なにか厄介なことでもあったか。格上の忍びか? 多勢に無勢か」
「……身重の女性を殺せなかったんで」
「なるほど、お前忍びに向いてないな」
「うぐ……き、気にしていることを……」
「その女は死んだろうなあ。お前が追われていたのだから。なあ、お前行くところはあるか? いや、聞いた私がばかだったな。そうだ、私が飼ってやろうか」
「……は、?」
「抜け忍なのだろ? それを雇うのはすこし難しいから、お前を飼うんだ。なに、少しの間従者の真似事をすればいい。忍びの仕事は私に馴染めばまた考えてやる」
何を言っているんだ、この子供は。忍びであるこの自分を、愛玩動物の様に扱うと? いや、しかし、申し出としては悪くないのでは、と考えてしまうのは、合理主義的な忍びの教育上仕方の無い事で。
「どうする、私はお前を外に放りなげてもかまわんぞ。手負いの忍びだ、追っても殺すのは容易かろうよ」
考えること数秒、自分はその子供の言葉に頷いていた。



孫にも一人くらい心休まる相手がいてもいいなーって
そして、ちょっとダメな感じの忍びくんは、飼い主のためにめきめき強くなっていくといい


06/07 11:28


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