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テーマ「推しとの恋」
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- ナノ -


◎武田孫


今日の若はいつも以上に機嫌が悪かった。普段から聞けない様な耳を覆う様な罵声を、地を這うしかない敵国の忍びに蹴りを入れながら浴びせている。
その姿に瞠目しているのはこの場に居合わせた武田の忍びと、俺様達くらいだろう。
「一体何が草だ、植物に申し訳ないとは思わないのか、クズが、忍ぶ者が聞いて呆れる、文字通り一度でもきちんと忍んでみたらどうだ、ええ? なんとか言ったらどうなんだ、忍び」
力の限りその男を蹴り上げ、呻く彼の胸に足を乗せる。
「おい、見ているんだろう。刀を貸せこいつからの情報なんぞ要るか? 要らねえよなあ。糞野郎、どこを切って欲しい? 腕か、足か? 二度とお前の主人に仕えられない様にしてやろう。ああ、舌を噛み切ろう等と思うな、お前が死ねば私はお前の主を殺してくれる」
ぐいと忍びの口布を下げ、若は彼の舌を掴む。その情けない姿は若の何かを刺激したらしい。くつくつと愉快そうな笑い声が漏れた。
「聞いた通り、お前の主は甘い様だ。忍びがこれ程迄に感情豊かだとは、うちの若虎だけだと思っていたのだがなあ。……何をしている、刀を寄越せと言っただろう。無いなら忍刀で構わん、早くしろ」
控えていたうちの一人が若の近くへ降り、恐る恐るといったていで忍刀を差し出した。若は差し出された刀の柄を掴み、刀身を鞘から引き抜く。そして容赦無く地に這った忍びの手の甲に突き刺した。痛みを堪えて呻く忍びを気に入ったのか、致命傷にならない程度に忍びを痛めつけていく。俺様が、濃くなる血の臭いに眉を顰めた時だ。若は忍びの被る頭巾を掴み、無理矢理視線を合わせる。
「辞めだ、お前の足も、腕も、命も奪わん。さあ、お前の飼い主の元へ戻ると良い。お前に当たり障りのない情報も持たせてやる。飼い主はよくぞ戻ったと褒めるだろう。だが、その姿は同族から見れば疑念しか生まないだろうなあ。耐えられなければ私の元へ来い、忍び。俺がお前を、飼い殺してやる」
頭巾を離すと、もう体力も殆ど残っていない忍びの顔が地面に衝突する。治療してやれ、と若が立ち上がり、控える忍びに命令すると、こちらへとやって来る。剣呑に煌めく彼の目は、大将と同じ色をしている。
「猿飛、幸村は息災か」
「え、あ、は、はい」
「ならば良い。次はもう少し気を張れ」
ひらりと片手を上げてその場を立ち去る若の後を、一人の忍びが追い掛けていく。残りの忍びも、若の命令に背く事は出来ず、戸惑いながらも気を飛ばした忍びの治療を始めた。

数日後、若に頭を垂れるその忍びを見て、ああ、とそこで漸く今迄の疑問の一つが解消された。
若が給金を殆ど出さずに、どうやって忍びを雇っていたのかがわからなかったのだ。機嫌が悪かったと思ったけれど、もしかしたら、それは案外演技だったのかもしれない。ああ、若は怖いなあ、と俺様は小さく呟いた。



もっと罵倒に対するボキャブラリー欲しい


06/07 10:02


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