◎南部晴政 「晴政様」 呼び掛けるが、かの人はこちらを向いては下さらない。 「まだ寒うございますから、ずっと外に居ては御身体に障ります」 私の体はとうに寒さを感じないから、もしや今夜は暖かいのかとも疑ったが、そういえば先程すれ違った者達は寒い寒いと呟いていたのを思い出した。 「晴政様っ」 先程よりも少しばかり声量を上げると、ゆるりとかの人はこちらを向いた。片目はすいと眇められ、月光で白髪は澄んだ輝きを見せる。 「私は寒さを感じませぬ故放り出されても構いませぬが、晴政様は違います。どうか中へ」 かの人は一度月を見上げ、仕方が無いとばかりに小さくため息をつき、漸くこちらへと戻って来られた。 「私は、晴政様。貴方様にとても感謝をしているのです」 やはり冷え切っていたらしいかの人の手を、温めた布で包みながら、胸中に仕舞っておいた常の考えを打ち明ける事にする。いつ、彼の前からなくなってしまうかもしれない、危うい体を自分はしていた。 「わしは、何にもしておらぬ」 「いいえ。一度命を落とした身なれど、貴方様は私に機会を下さった。死ぬ苦しみを、切られる痛みを、私は知りませぬ。けれど、命の尊さは誰よりも理解しているつもりでございます」 漸く赤みを取り戻したかの人の手を、先程とは違う、少し温度を上げて温めた布を巻き付けた。 「私は、生者では御座いませぬ、晴政様。貴方がいなければ私も、何もかも消えてしまう。お願いです、晴政様。あなたには生きていてほしい」 そういうと、目の前のかの人は驚いたように目を丸くしたが、やがて、ふわりと口は弧を描いた。 ◆ くそねむ 06/05 23:48 mae top tugi |