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◎hzbn


「ご機嫌よう」
ホテルの扉が開く。共に入ってきたのは女の声だ。ホテルフロントを兼ねている猫の悪魔は、その声にギョッとして酒瓶を取り落とした。
幸い割れることはなかったが、密かに逃れる事は不可能となった。
「あら……貴方がいるのね、キティ」
彼女はバーカウンターに近寄り、するりと彼に手を近づけた。大きな手はそのまま頭頂部を擦り、顔の側面を経て、顎を優しく撫でていく。ぐるる、と彼の喉が鳴った。
「……誰?」
間近でそれを見ていた蜘蛛の悪魔が口を開いた。
「あら、あら、ごめんなさいね、懐かしい顔を見たものだから……」
彼女は猫を撫でるのをやめ、蜘蛛の悪魔に向き直る。
悪魔たちは彼女を見上げた。上品なドレス、嫋やかな指先、艶のある声。背は高く、表情はヘッドドレスの影も相まってよく見えない。美しい顔であるということだけはそれでもよくわかった。
「……レディ」
バーカウンターよりも遠くから、ラジオノイズと共に声が聞こえる。
「まあ、まあ!噂は本当だったようね」
彼女は声の方へと顔を向ける。弾んだ声だ。
「ああ……私の子鹿、顔をよく見せて」
声の主人の方へと歩み出し、彼女の両手が鹿の悪魔の顔に触れた。
普段は接触を好まないはずの彼が逃げ出さないことに、蜘蛛の悪魔だけが驚いている。

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ヘラジカの魔女


02/21 19:10


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