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◎万次さん


新しい肉と皮を僅かに割いて小さな痛みを生み出しながら、ずるりと刀が抜けていった。
幾つもの刀で作られた、身体の縛が徐々に解かれていく。
何かを言われるが、生憎と音が言葉として聞こえてこない。ならばとそちらへ視線をやるけれど、楔を抜く彼の背しか見えない。
腕や足が転がっているのが視界の端に見える。あれは自分のものではない。この身体に杭を打った奴らの成れの果てだ。今、この身体を自由にせんとしている男の犯行である。
流石に血を流しすぎたらしかった。視界も良くないし、少し寒い。久々にここまで無様を晒した。
「あて、つ」
彼が此方を向いて、苦く笑った。
初めて出会った時は子どもだった彼も、今では立派な大人である。顔の傷も増えているし、記憶にあるより背も高い。
身体から最後の一振が抜かれる。上体を起こせば、彼が手を差し出してくるので、遠慮なく握る。ぐい、と思ったより強い力で腕を引かれ、そのまま腕の中に入った。おい、と声あげるが、無視されたばかりか、腰に腕を回される。
すうっ、と小さな音と冷めた空気が肌を擽った。
「嗅ぐな」
血のにおいしかしないだろうに。
「……無茶をしなさるな」
珍しい表情をされた。兄弟にしか向けないような、心配と安心と、色々なものが混ざった顔。
「お前さんは完璧な不死では無かろう」
手が頬に添えられ、その手が輪郭をなぞり、喉仏を撫でる。あれだけの立ち回りだったというのに、その手には血も付いていない。
「いつか死んでしまうぞ」
喉仏から首の根と手は滑っていく。
「……ほら、心臓だ。お前さんはここを突いても死なんがね」
「阿哲」
ぱ、と阿哲が一歩引いた。
にこりと綺麗に微笑む。
「万次さん、ちょいと付き合ってくれるか」

×××
続きはない


05/03 02:43


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