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◎戴ちゃん:没


名を呼ばれて頭を上げる。走ってくるのは友人の妹だ。
逸刀流が無くなって、追われているのを助けてやってから、面倒を見始めるまではずっと同性だとばかり思っていた。性別を知った今でこそ女らしくなったなと思う事もあるが、髪型を変えても中性的な雰囲気は残っているし、女性的な男、と評されることも多い。
それでも。
「さっき知らない人から武器もらった」
「……見せてみな」
「これ!鉄で出来てるんだって!」
いとも簡単に掌に乗せられる、簪。
金属のひやりとした部分と、握りしめていたのか体温が移って温くなっている部分があった。
彼女を女だと気付いた同世代か、はたまた男でも良いと思っているのか。時折こうして、簪や紅や、そういう類のものを貰ってくる事がある。
逸刀流の中で、それも男として育ってきた彼女が、男達の贈り物の意味を知るはずもなく、毎度のことながら、相手の誤解をどう解くかで頭を悩ませる。同年代の子どもならまだ良いが、今回のこれは明らかに大人の男からだろう。一世一代の求婚を、部外者に当たる己が出向いて突き返すのも、どうかと思ってしまうわけで。
「なあ青、何回か教えたよな。男から物を貰うのはやめておけって」
「でもたいちゃんや糸ちゃんや、お爺ちゃん達からは色々貰うよ」
「……あー、どう言や良いかねえ……あのな、青。そもそも簪は武器じゃねーってのはわかるか?」
「えっ、でもこれで万次もたいちゃんも戦ったことあるでしょ」
「あれは不可抗力ってやつな。包丁で戦う事もあるけど、包丁は食いもん切る道具だよな?」
「本当は別の道具ってやつか」
「そ。簪はな、髪飾りの一つなんだよ。こういう一本のものは、髪を巻き付けて留めたり出来る」
「万能!」
「……で、男が女へ少し高い簪を贈るのは、求婚と同義になるわけ」
「……うわ」
その言葉を聞いた途端、青の顔が引きつった。
彼女は、自分に女を見出す男達を嫌悪している節がある。以前、一人で留守番させた時、酷い目に遭ったのが大元の原因だろうが、元々男として育ってきているのだ。女扱いを嫌がるのも当然と言えた。
「簪はお前の髪を乱したいって意味だよ」
「……直接言やいいのに!そうすれば青だってちゃんと断れるじゃん、意味わかんないよ、気持ち悪いなあ!たいちゃんありがと!返してくる!」
預けていた簪を取ろうと手を伸ばす。事の重大さをわかっちゃいない。簪をひょいと頭上へ持ち上げた。
「ちょっと!」
「お前一人で行く気かよ。危ねーだろ」
こちらをぎっと睨む姿も、青を知っている己の身からすれば、子どもの可愛いわがままのようなもので。
「……たいちゃんが何言いたいのか、青にだってわかんないわけじゃない。青は子どもだ。どうしたって、抑え込まれたら終わりなの、わかってるよ。でも今日の相手は腕に覚えがあるような男じゃない。距離取ってれば問題ない。……それでももし近付いてきたら斬ればいい」
「……オメーな……」
息を吐いた。斬れば良いなんてよくも簡単に言ってくれる。この青もそうだが、こいつの兄弟は揃って、最終的な結論は常に同じだ。逸刀流だったからじゃない。一番上は逸刀流に所属だってしちゃいない。元々、そういう風に育ったのだろう。斬れ、と。
その分、彼女らは強かった。人を斬る事に関して言えば、この三兄妹は向かう所敵なしと言っても過言じゃない。だけどそれはあくまでも、剣士同士に限った場合だ。
「斬んなよ。そうしねえように剣譲ったんだから」
「……、」
何かを訴えようと口を開くが、結局何も言わずに口を閉じ、こちらを睨んでいた視線を落とす。

×××
書けないんだーーわーーーーー


03/13 21:55


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