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◎戴ちゃん


「止せ、青!」

静止が遅かった。遠心力と全身を使って繰り出された刃物は、ばっ、と鈍い音を立てて、男の胴を斬りとばした。悲鳴が上がる。少女が跳んだ。弾き出された一刀が逃げようとする男の背を深々と突き刺し、崩れ落ちる男の背に着地した彼女が、勢いのままに刀を振り上げる。嫌な音を立てながら、上半身を二つに切り分けられ、男は倒れた。踏み付けた少女は意にも介さず、その先で恐怖に震える女の首を素早く刎ねる。
勢いよく噴き出す血を浴びながら、青はだらりと両手と頭を下げた。あの目立つ変形武器とふた振りの短剣を、自ら他人へ譲ったにも関わらず、青は匕首を何処からか調達して持っていた。匕首を投げ捨てようとするが出来ず、その場でしゃがみ込んでしまう。

「青」

すっかり血まみれになった彼女を、ずっとこの場においてはおくわけにはいかない。血を避けながら少女の元へ行き、腕を引いた。何の抵抗もなく立ち上がる。匕首を鞘に戻し、その手から引き抜く。ああ、この血を何とかしなければ。

「青は、人を斬るのをきっと辞められないんだ……」

為されるがままに手を引かれる彼女がぽつりと呟くのを聞く。己の眉間に皺が寄るのがわかった。
青は、物心をつく頃からずっと逸刀流の中で育った。多くの剣士が彼女に剣や様々な武器の扱い方、技を教え、彼女はその教えを生かして多くの命を刈り取ってきた。
何よりも早く逸刀流に染まった子どもだ。思想は理解できてはいないのだろうが、そういう環境で育っている。人を斬るのが日常で、死が彼女に寄り添っている。

「とりあえず、血を流そう。な」

×××

「青ちゃん、大丈夫なのか?」

糸伊が青を見ながら言う。何時もは元気に畑を走り回ったりしているのだが、今日は朝から大人しい。

「どうやったら立ち直んのか、己にもわかんねー」

葉矢ならばもしやとも思うが、ここのところ彼女と長く話せる機会がなかった。糸伊は葉矢の情夫で、己はそこでは部外者だ。青の事とはいえ、間に入って話を聞こうとは思わない。

「ああ、そういや……青!」

普段よりは反応が鈍いものの、呼べばゆっくりと此方へ来る。いつからあの場に座っていたのか、土のついた場所を払ってやってから、懐のものを手渡した。少し重みのあるそれ。街の知り合いからもらった草餅だ。

「ほら、廻船問屋の近くにある長屋の婆ちゃんはわかるだろ。オメーが元気ねえからってくれたんだよ。感謝しなきゃな」

葉に包まれた餅の存在に、青がぱちりと驚いた風に瞬きをする。葉の上を手でなぞり、沈んだ顔の中にほんのりと笑みが浮く。
さほど汚れてないだろう手を着物に擦り付け、青がゆっくりと包みを開いた。大きな丸が三つ、青の手の中にある。

「ひとつ、ずつだね。あおのと、たいちゃんと、いとちゃんと」

ずいと此方へ餅を寄越す。糸伊と目を見合わせた。

「青ちゃんが全部食べていいんだよ」
「でも三つあるもの、分けるのが良い」
「そーかよ。じゃあ一つもらうわ」

うん、とゆるく頷く。さっと草餅を取って口に入れれば、糸伊も倣って青の手から一つ取る。己と違って一口で食べていた。
三人で分ける事を承知の上だったのか、餡の甘さが控えめにしてある。礼を言いに行くだけではダメそうだ、これは。
青がいつもよりゆっくりと餅を食べるのを見る。糸伊が苦笑しながらこの場を離れた。茶でも淹れに行ったのか。

「美味いか?」
「……うん」
「礼をしに行かなきゃな」
「たいちゃんも、行くの」
「貰っちまったからなァ」

不意に手を引かれる。
葉を畳んで自分の懐に仕舞ったらしく、両手とも己の手を掴んでいた。青の指が、掌の硬さをはかるように動き、そのまま頬へと導く。

「たいちゃんの手も、剣を持ってた。兄上の手も。影ちゃんの手も……みんな、剣を持ってた。青の手も、持ってる……」

すり、頬擦りを一つ。青の顔を見て、涙の跡があることに気付いた。ああ、泣いたのか。親指で緩く撫でる。

「でもたいちゃんの手は、野菜も作れる。いとちゃんもそう。お婆ちゃんは、お団子を作れるし、はやちゃんも、男の人をなぐさめてあげられる。すごい手、ばっかりだね」

黒い目から一筋、涙が落ちて、手を濡らした。

「青の手は、人を殺すことしかできないのに」

もう片方の手を、空いた頬に充てる。しゃがんで目線を合わせる。

「この莫迦。オメーの手はまだどうなるか決まってねーだけだ。心配すんな。オメーには己も、糸伊も居るだろーが」

ゴツ、額を合わせた。

「今はただ笑ってりゃ良い。そんな顔してっと、みんな心配すんだろーがよ」
「……たいちゃんも?」
「つーかよ、己が一番心配してる自覚はあるぞ」
「……そっかあ」

青の顔が、緩く笑顔を作る。まだいつもの通りとまではいかないが、回復の見込みはありそうだ。ほっとする。
甘やかしているという自覚もある。妹なのか、娘なのか最早わからん具合だ。まあ、なんだ。目に入れても痛くない気はしている。
糸伊がこちらを呼ぶ声がする。ああ、やっぱり茶を淹れてくれていたらしかった。

「青、行くぞ、休憩だ」
「うん」

×××
凶くん好き


03/08 19:06


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