◎むげにん 「わ、たたっ、あわあっ!」 どすん、と子供は尻餅をつく。重い物を背負っているために体勢を崩したというのは誰の目にも明らかだった。 咄嗟に武器を掴んだ手を放し、目の前の子供を見る。手を貸してやるかどうか、逡巡する。 「……大丈夫かよ」 「わはは……すみません、とんだ未熟者で」 結局声をかけるだけに留める。相手はどうあれ、こちらに敵意を向けてきたのだ。 子供特有の高い声、尻端折りの着物と股引き。髪は長く、月代もなければ髷を結っているわけでもなく、ただ頭頂部で纏めている。目は少し大きいか。中性的な顔立ち。多分、男。 襷掛けされた袖から伸びる腕は、籠手に覆われているものの、しっかりと肉付いているのがわかる。特筆すべきはその襷掛けの紐と帯だ。黒く染められた革でできたそれらは、子が背負っているものを吊るための装備でもあった。 「いやあ、これ、重くてですね。へへ……でも、攻撃しないなんて優しいんですね、今が殺す絶好の機会なのに」 よ、と軽い掛け声とともに、子は立ち上がった。背後に庇った凛よりも、更に年が下に見えるが、実際はどうなのか。 「……あー、やっぱりてめえも逸刀流なのかよ?」 「はい! 末席を汚させて頂いております、青と申します!」 ぱっと愛らしい笑顔を見せながら、子供はそう言い放った。 がしゃん、と背から抜かれる刃物は大きな剣だ。片刃ではあるが刀ではなく、となれば西洋のものなのだろう。自分の体よりも幾分大きなそれ。あんなものを背負っているのだから、気を抜けば背後へ倒れるのも必至だろう。 そんなものを、こんな小さなガキが持つに至ったのはどうしてか。逸刀流に与しなければならない理由とは何か。背景が透けて見えるようで、少しばかり苦い思いが胸に広がる。 「兄上とたいちゃんを傷物にした万次さんに復讐すべく、不肖青が代わりに勝負を挑みに参りました!」 「その言い方はおかしくねえか!?」 がしゃん、と音がする。青のいる方からだ。 はっとしてその場から離れるが、ぞん、と相手の刃物が腹の一部を切り裂いていった。手で押さえるより先に、血と内臓が噴き出していく。なぜ、と疑問が脳を渦巻いた。後ろへ飛んで回避したのだ。けして、青の操る刃物が届く距離ではなかった。 頭をあげる。は、と声が漏れた。成る程、自分の持つ刀と同じ原理だ。二刀を繋ぎ合わせて両刃剣にしたのである。射程距離が伸びるのも頷けた。 決して強い相手ではない。だが、己にとっては厄介な相手だった。今まで戦ってきたのはどうしたって身体的な成長を終えた男女ばかりで、これ程小柄な子どもの経験は乏しい。あの動きにしたってそうだ。あの武器の重さに振り回され、不規則になりがちで、どうしたって攻撃の調子がずれる。伊達に逸刀流を名乗っていない。重りをぶら下げていて尚、ついていくのがしんどい程度には素早かった。 ふおん、と風を切る音が耳の近くで聞こえた。ひやりとする。 身の丈に合わない、己より大きな武器に振り回されながらも、それを扱って戦うことのできる子ども。今まで戦ってきた逸刀流の面々を思う。化け物ばかりだ。これが更に成長するのかと思うと、ぞっとする。 だが所詮は子ども。ある程度攻撃を受け続けて慣れれば問題ない。一般人なら既に死んでいてもおかしくないだろうが、相対するのはこの己である。がん、と音を立てて両刃剣を大きく弾いた。よろめき体勢を崩した青へと突進し、匕首を振り抜く。が、簡単には攻撃させてくれるはずもなく、体勢を崩した状態から、武器を地に突き刺し、それを軸にくるりと交わした。舌打ちが漏れる。 がこん、背後で音。足に衝撃。体勢を崩して地面に激突する。滑る勢いで子どもの方へと頭を向けて、絶句した。 両足が跳ね飛ばされていたからではない。 「んな──っ」 子どもが抱えている武器が、両刃剣ではなく、大鎌だったからだ。 刃や肢の形からして、同じ武器なのは明らかだ。つまりは変形、するのだろう。先程から聞いていた、重く鈍い、金属音。あれが変型させている時の音なのだ。あの一瞬で、ここまで形を変えるのか。ああ、正しく逸刀流。子どもはこの武器を下げるからこそ、強いのだ。 「卍さん!」 こちらを見ている凛が叫ぶ。今にもこちらへ駆け出してきそうだった。来るな、と声を荒げる。凛がもしこちらへ来ても、共に斬られるだけに違いない。なにせ自分は腹も足も斬られているのに、目の前のガキは、無傷なのだから。 二つの短剣、両刃剣、大鎌。次は一体何が出る。一体どれだけ変化する。青の背に下がる重しは、まだ何かの仕掛けがあると告げているようで、寒気すら感じる。さて如何するかと子どもを見上げた。足がないのだから、立ち上がる事もできない。詰みだ。ひゅん、と青が大鎌を振った。 ××× このあと凛ちゃんが黄金虫を使って気をそらし、会話を交えて気をそらし、その間に万次が足をくっつけて戦闘続行。 可変大型武器は他に大剣、片手剣、斧、槍、と変化します。三つの刃に二つの肢、棒他が背中のケースに収納され、がしゃこんがしゃこんと色々と弄って武器形態を変えるのだ……重いはずである。ちなみにそのケースとは別に短剣がふた振りあります。重いはずである。 兄上は万次と死闘して生きてるよ。万次と戦闘してから武器が増えました。重心が変わったから、戦闘中たまによろける。おっと。 03/07 08:55 mae top tugi |