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◎鬼滅


その人は鮮やかに一閃、躊躇いなく鬼の首を落とした。
隊服に身を包んでいるわけではなく、美しい鋼色の刀をただ薙いだだけ。 証拠に鬼は頸を刈られたというのに、死ぬことはなかった。

「……しぶといな」

切り離されて転がる頭部を一瞥し、その頭部へと近付こうとする胴体を勢いよく踏み付け、すぱんと両足を切り落とす。その勢いのままに蠢く両腕を斬り、腹の辺りで胴を割り斬り、更に腕や足などの数を増やしたところで、鬼だったものはまだ動こうとしていた。

「呆れ果てた外道だな。子らを甚振り喰おうとした挙句、こうまでされてもまだ死なぬとは」

喚き散らす頭部の脳天から真っ直ぐ刀を突き刺し、その場に縫い留めると、比較的大きく残る上半身の胴体に彼は腰掛けた。

「我が祖国である日の本に、お前のような醜悪なものが在るとは思わなんだ。お前はどうやったら死ぬかね。魑魅魍魎と言えば太陽の光には弱いと聞くが、試すにも夜明けまではまだあろうな。
……そこの子供たち。怪我はないか」

その人は漸くこちらを向き、声をかけてきた。
月明かりに照らされた彼の髪は黒く、短く整えられている。太めのつり上がった眉に、優しげな垂れ目。服装は隊服に似ているが全身が白く、金の釦と黒い肩章が印象的だった。けれど、その白は鬼の返り血ですっかりと汚れてしまっている。

「怪我がないのなら良い。夜中に出歩くのは止しなさい。君たちにも理由があるだろうが、せめてもっと明るい道を歩きなさい。なにも好き好んで山を歩く必要もなかろう。せめて明るい時にしなさい」

ふう、と彼は息を吐き、ついと木々の間から空を見上げる。まだ朝までは長そうで、喚き散らす頭部に、新しく両刃の小刀を叩き込んでいた。
それでも大小様々な大きさで寸断されている鬼の体は、徐々に元に戻ろうとしている。それを認めて、彼は両刃の小刀をいくつか投げ、その場に四肢を縫い止める。

「子供たち、家は? 麓の子なのだろう、気をつけてお帰り。俺は生憎これから離れられないから、送ってやれないが、マア、大丈夫だろう。だが山道だ。送り妖怪がでたら、転けないように。転けても何か言い訳をするんだぞ」

ほら、行きなさい、と言われて、気絶する友人をどうにか抱えて山を駆け下りる。
あの人は大丈夫だ。それに本心から自分たちを心配してくれている。何かしたいとは思ったけれど、あまりにも力不足だった。
本当なら殺されていた。あの細かく刻まれてしまった鬼に。自分は鬼殺隊員の下っ端だけど、まさかこんな強い鬼に遭遇するだなんて思っていなかった。日輪刀は折れて、鬼に取られてしまって手元にもない。藤の花の家に飛び込む。誰か、誰か居ないか。あの人は多分、剣技が抜きん出て凄いだけの一般人だ。日輪刀を持たなければ、鬼という存在も知らぬようだった。服から考えれば、伴天連かどこかに居たに違いなく、きっと本当に、何も知らない。
家の人が慌ててやってくる。俺たちの他に鬼殺隊員は来ていないか、聞けば居ないと言われてしまった。そうだ。自分たちは任務と言われてやってきたのだった。居るわけがない。蝶屋敷でもないこの場所に、我々の他に来ているわけがない。
ああ、あの人は。今も山林の中、鬼に腰掛けているのだろう。
安堵の気持ちと情けなさで、涙が出て止まらなかった。


10/06 16:25


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