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◎MHAinトリオ


「ひったくりだー!」

その声にいち早く反応したのは緑谷だった。周囲を見回し、反対側の歩道を走っていく人物を見つける。しかしながら、人通りも車の行き来も多い繁華街、人を避けながら追いかけ始めたが、犯人はするすると人を避けて逃げていく。逃してしまう。その考えが頭に過ぎる。

「Hey boy! Don't steal!」

愛らしい声が人混みから弾き出され、ストロベリーブロンドの女性が、一人の男を空へと引きずり上げる。まさか宙を浮くとは思いもしなかったのだろう。男は慌てて女性から逃げようと暴れるが、がっしりと腕を掴む彼女の手はびくともしない。このアマ、と男は叫び、空いた手を彼女に向ける。個性を使う気だ。しかし、次の瞬間には男の体が動かなくなり、腕だけが曲がらないはずの方向へとゆっくり曲がっていく。折れるか折れないかの角度で腕は曲がるのをやめたが、男はその痛みに悲鳴を上げた。女性は飛ぶ以外に何もしていない。勝手に男の腕が曲がったのだ。

「Air! Don't run out without saying anything!」
「What? I'm just doing a good thing! Or do I miss it?」
「Stop.First you have to return your bag.The fight is then,Got it?」
「Okay,as you say.Fire,as it is.Take down.」

人が避けるようにして開かれた丸い場所へ、女性がゆっくりと降りて行く。男は吊り上げられた状態のまま、地面に転がされた。パチパチと拍手が起こる。

「Ah…Does anyone have a rope?」

女性が何かを見物人に問いかけるが、ほとんどの人が首を傾げるだけだ。

「Rope! Rope!」
「あ!それ俺が!」

横断歩道を渡った瀬呂が、走りながら彼女に近付き、転がされた男性を、肘から出したテープでぐるぐると巻いて行く。それを彼女は驚いたように目を丸くし、しげしげと興味深く眺めていた。
窃盗犯を拘束し終えたのを見て、彼女の元に二人の男性が寄ってくる。一人は金髪で、もう一人は黒人だった。二、三言葉を交わすと、瀬呂の肩を笑顔の黒人男性が叩く。弾んだ声からしても、きっと瀬呂を褒めているのだろう。
サイレンが聞こえ、パトカーが止まった。警察官が現れ、三人に話を聞こうとするが、何分言語が違うために中々会話が成立しない。周囲の人が状況を説明するものの、許可なく個性を使用した事で話がややこしくなっているようだ。外国人だから、どうもうまく説明できないらしい。
何度かやりとりした後で、どうやら口頭注意に留めたらしく、窃盗犯は警察官に連れられパトカーで連れ去られていった。
瀬呂の後を走ってきていた緑谷は、三人の外国人に既視感を覚えるも、それが何なのか思い出せずにいた。

×××

ピンクの衣服に身を包んだ女性が、最後のヴィランを放り投げた。何人か重ねられた場所に、そのヴィランが落ちる。パンパンと両手を叩きながら、彼女は地に降り立った。
ふわりとヴィラン達が宙を浮いた。飛んできた縄がするすると彼らを拘束する。同じ方向に向いた彼らが、ドサドサと地面に落ちていった。最後の一人が地面を転がったところで、一人の青年が女性の元へ駆け寄って行く。その後ろをゆっくり歩いて来るのは、軍人のような格好をした男性だった。迷彩柄のキャップに、三角の耳が二つ付いているのが特徴的だ。

「ファ、ファイターズだ……!」

緑谷出久がぱしりと口元に手を当てた。きらきらと目が輝く。近くにいたクラスメイト達は、皆一様に首を傾げて緑谷を見た。一番近くにいた上鳴が何かと尋ねる。

「ファイターズだよ!アメリカのヒーローなんだ!チームってわけじゃないけど、三人とも共通して戦闘機のヒーローネームを持ってるから一纏めにファイターズって呼ばれてるんだ。あの女性がエアラコメット!個性はスーパーパワーって言ってる。空を飛んだり凄いパンチだったり、アメリカの女性オールマイトって感じかな。あの黒人男性はファイアボール!没個性なんて言って卑下しているけど強力なサイコキネシスの個性を持ってる。ファイアボールは2代目で、1代目ファイアボールは消防士としても活躍してたんだ。今のファイアボールは若いから、ジュニアって呼ばれることもあるみたい。最後はあのトムキャット!迷彩柄の猫耳キャップがトレードマーク!デビューしたての頃なんかは迷彩の目出し帽だったせいでヴィランと間違われたりもしてたんだけど、猫耳キャップにしてからはもう知名度もグングン上がってってね。それでも二人よりはマイナーなんだけど。個性はまだ不明瞭で、治癒系か防御系なんじゃないかって噂なんだ。怪我や敵の武器に怯むことなく戦う姿がとにかく泥臭くて、でもそこがカッコいいんだよ!アメリカが拠点だから日本で会えるなんて思ってもみなかったよ……!」

早口で捲し立てる緑谷に、気圧される上鳴達だったが、それでもなんとか、要点だけは頭に入ったようだった。女性がエアラコメット、黒人男性がファイアボール、そして猫耳キャップのトムキャット。
トムキャットが緑谷達の方を見た。ひら、と手を振る。
ヷア゙ー!と緑谷が悲鳴を上げた。どうやらオールマイトほどではないにせよ、だいぶ入れ込んでいるヒーロー達のようである。

×××

「と、言うわけで……特別講師の皆さんだ」
「Hi everyone! Are you doing your best?」
「ヴヷッ!!!」

ヒーロー科の生徒達を前に、三人の臨時講師が立っていた。緑谷出久が声を上げ、慌てて両手で口を押さえる。この間強盗を華麗に捕まえていたのを、一般人として見たばかりだ。それを今度は教師と生徒として接することになろうとは。
緑谷と共に三人の活躍を見ていたメンバーは驚きの表情を見せ、そうでない生徒は胡乱な顔で臨時講師を見つめる。

「てめえら強ェのか」
「かっ……かっちゃん!!!失礼だよ!!!」
「うるせえデク黙ってろ!!!」
「Oh,You’re energetic」

トムキャットがキャップの上から頭をかく。三人共に顔を見合わせ、ぱちりと瞬きした。そこからぽんぽんとリズムよく言葉を交わしていく。三人の親しさが見て取れた。
ファイアボールが小さく手を挙げ、ほかの二人がギョッとして彼を見る。そして、スパンとトムキャットが彼の後頭部を叩いた。エアラコメットはそれを見て何かを伝えると、ファイアボールが頷く。

「アー、それじゃあ、ご紹介にあずかりました、こちらがエアラコメット、トムキャット、そしておれ、ファイアボールです。そうだな、アメリカじゃ日本とはちょっと違って、ヒーローは誰もがなりたい職業じゃない。親もヒーローにさせたがらないし、ヒーローも素性を隠すのが基本だ。何故か。危険だからだ。警察や消防士や軍人だって危険だけど、ヒーローはその比じゃない。日本よりももっと過激で凶悪な犯罪者が多い。真正面からなんて攻めてこない。奴らは頭を捻る。どうすればあの邪魔なヒーロー共を出し抜けるか?どうすれば奴らを苦しめられるか?どうすれば殺せるか?そうやって考えて、情報を集めて、ヒーローの素性を知れば、奴らは勿論、その家族を狙う。祖父母、父母、兄弟姉妹、妻子に恋人。守るべきものは何か。おれたちは常に天秤にかけられる。最大多数の最大幸福か、たった一人の大切な人か。簡単に奴らは命を奪うんだ。日本じゃあんまりないだろ?これから出てくるかもしれないけど。
ま、そもそもこっちのヒーローって、日本と違って職業じゃないんだ。お給料なんか出ない。いわゆる、アー」
「It's a volunteer in Japanese?」
「そう!ボランティアなんだ。奉仕活動で命を落とす可能性があるのに、やりたがるなんて頭おかしいと思うだろ?そんな感じさ。リカバリーガール、なんて人も居ないしね。素性を隠さなきゃいけないから、医療機関だって堂々と行けないわけだし……君たち日本人でラッキーだね!ほんと羨ましい……Oops! そう、それで、さっきの元気な君! おれたちは強いのか聞いたよな。おれたちの強さって、結構場合によるんだ。特にトムキャットはね。この三人の中で、純粋に攻撃力が高いのは誰かって言えばそれはエアラコメットだ。じゃあ異能だけで考えれば?それは多分おれだと思う。災害救助にはもってこいだ。だけどね。この三人で戦ったら誰が残るかって言われたら、それはトムキャットだ。トムキャット以外あり得ない。彼はね、勝てはしないけど、絶対に負けもしないんだ。
さて!長く喋りすぎたな。それじゃ、今日の本題と行こう!模擬戦だ!一人ずつじっくりやってると流石におれたちが疲れるし、時間もないから制限時間を設ける。総当たりもできないから、三人で分けて対応する。
さあ、日本のヒーロー見習いたち!おれたちファイターに勝てるかな!」


09/26 06:22


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