◎あべんじとトリオ どこから飛んできたのか、トムキャットを殴打して落ちた円盤は、赤と白のストライプで縁取りされ、中心の青の中に白い星がひとつ配置されたデザインのラウンドシールドだった。それを見てすぐ持ち主が連想される。そのラウンドシールドが、その持ち主の代名詞と言っても過言ではないからだ。 驚いたのは、トムキャットを殴打して地面に落ちてしまったという点で、本来の持ち主が投げたものであるなら、既に手元に戻っているはずだったからだ。 ファイアボールがそのラウンドシールドを持ち上げ、しげしげと眺める。 「こんな近くで初めて見た」 「強烈な……痛さ……」 「死ななかっただけマシでしょ。……もしかして死んだ?」 「死んでない……大丈夫」 空から降りてきた少女の手を借りてトムキャットが立ち上がる。 「なんて金属だったっけ、アダマント?」 「ヴィブラニウム。アダマンチウムはウルヴィの体内にある金属ね」 不意に少女、エアラコメットがファイアボールから盾を奪った。直後、ばぁん、と大きな音と共にその盾が振動し、近くのコンクリートが砕け散る。 レーザーによる攻撃だった。盾が無ければファイアボールの身体に穴が空いていたかもしれない。 「ファイア、隠れて!」 エアラコメットが言うより早く、トムキャットがファイアボールを庇うように立ち、安全性を高める。三人の視線の先には、有名なヒーローが数人。 「ヴィランにでもなった気分だ」 「彼らからすれば私達はヴィランよ」 ぐい、とエアラコメットから何かの力で盾が引かれ、キャプテンアメリカの手の中に戻った。アイアンマンが開発した、磁力を用いた装置が作動したのだが、そんな事を彼女は知らない。ただ、何かあるのだろう事くらいは察せられる。そして、苦い表情を浮かべた。 「ホント……嫌になるわ」 相手は大きなバックアップや財力を持つ本物のヒーローだ。対する自分達は、しがない一般市民が異能を得ただけのヴィジランテ。戦力差は歴然だった。 「トミーが──トムキャットが、ジャッジを庇ったのがそんなに許せないの?」 ジャッジマン。私刑執行人として、正義とは何であるかと言う議論に、よく例題として出される一人である。 彼は常に己の正義に従って行動し、法から逃れ、または世から隠れた罪人を罰することを仕事としているが、それは時にヒーローをも対象とする。今回はその対象が、よりにもよって、アベンジャーズの関係者だったのだろう。 ジャッジマンと長く付き合うトムキャットが、彼を知るからこそ彼を庇ったが為に、ハルクと戦闘をするに至り、そこに助太刀に入ったファイアボールとエアラコメットも、アベンジャーズの敵と認識されたのである。 「彼は我が友を殺した男を庇った。これ以上ない説明だと思うが」 アイアンマンが片手をこちらに向けたまま一歩前へと出る。先程コンクリートを砕いた張本人だ。 「ジャッジは根拠なく人を罰しないわ。貴方の友人をジャッジが殺したと言うなら、彼は悪人だったのよ」 己もジャッジマンを知りる者だ。例外が居ることは居るけれど、彼は常に公正であろうとする。法の下で捌ける人間であるなら、きちんと警察へ突き出していただろう。けれどそうしなかったのなら、裁判で勝てる証拠が無かったのだ。彼が悪であるという、揺るぎない自信はあるのに。 目を覚ませ、とは言わない。だが、弁明だけはしておきたい。 「エア!」 「……ッファイア、ジャンプ!」 トムキャットとエアラコメットの叫び声に弾かれて、ファイアボールが上空に跳んだ。エアラコメットも即座に退避するが、トムキャットはその場に立ったままだ。しまった、とファイアボールが降下しようとするが、エアラコメットがそれを止めた。 「トミーは大丈夫よ。勝てはしないでしょうけど……負けもしないわ」 ハルクが逃げ遅れたトムキャットに向かって突進した。トムキャットは応戦しようとするが、彼に怪力のスーパーパワーなどない。少し鍛えた程度の力しか持たないのだ。 彼はなすすべなくハルクに掴まれ、強大な力を持って地面にで擂りおろされ、握り潰されて地面に叩きつけれた時にはもはや人であっただろうことがかろうじてわかる程度の無残な死体へと変わっていた。 死体を見たハルクが勝利の咆哮を上げ、あまりの呆気なさにアベンジャーズの面々が目を丸くする。 けれど、空へ逃げた二人が悲観することはない。彼の特殊能力はたった一つだけ。 トムキャット。勿論名前の由来は戦闘機のプリントシャツから来ているが、もう一つ、名前に掛けられているものがある。 「……ああ、もう、服は元に戻らないんだから。もう少し優しく殺して欲しいよ、全く」 ハルクの背後で、トムキャットの声が上がった。 先程擂り潰されて砕かれたはずの身体は、しっかりと健康的な成人男性のものに戻っている。帽子とバラクラバ、アイウェアだけは丈夫に作られているのか、少し傷はついているが、素顔を晒すことはなかった。 「ハルク。勝利の雄叫びはまだ早いよ。俺はまだ負けを認めてないもの」 トムキャット。艦上戦闘機F-14の愛称であり、雄猫を冠する名称。 猫のようにしなやかな動きができるわけではない。かといって戦闘機のような攻撃力があるわけでもない。だが、彼は誰にも負けたことがなかった。 猫に九生有り。 掛けられているもう一つの由来である。 すなわち、トムキャットは不死身だった。 「ファイア、下がって」 戦場を空中に変えても、追ってくるのがヒーローというものだ。赤い塗装を施された、金属製のスーツを身に纏うヒーローがエアラコメットの目の前に浮かぶ。 「君たちはなぜ敵対する?あまり良い判断とは言えないと思うが」 「ジャッジの方が貴方達より付き合いが長いからに決まってるでしょ。……それに、ええ。彼等を守ることがひいては私達のためになるの」 ジャッジは影に潜む一族だ。彼等は人の中に居て、僅かな数を減らさぬように生きている。絶滅危惧種というやつだ。故に彼等は仲間意識が強く、一人の命が脅かされれば、地球上どこに居ても、次の瞬間には周囲のあらゆる影に一族の全てが潜むことになる。種を脅かすその外敵が、そのまま影に足を踏み入れれば、命はすぐさま刈り取られ、影の中に引きずり込まれ、二度と世界には戻ってこれはしないだろう。それはきっと、目の前のヒーローでも関係ない。虚ろなる影の民に、装甲や知能など意味を成さないのだから。 ××××××× ア〜〜〜アア〜〜〜↓↓↓ 書きたいところに行かないし脱線するし当初の予定と違うしもう!もう!!、 10/22 01:24 mae top tugi |