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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -


◎あべんじとトリオ


「良いわね──」
緑の巨人を張り倒した少女は、砂を払う様に手を何度か叩いた。
「──次はもっと酷くするわよ」
細く愛らしい少女に倒された緑の巨人は、目を丸くしたままこくりと頷く。彼女は花飾りで縛られた長い髪を靡かせて背後へと振り返る。
「トムキャット、ファイアボール!貴方達は弱いのよ!私が居ない時に誰彼構わず喧嘩を売らないで!」
「……はい」
白とピンクの可愛らしい色合いをした彼女の前で、先程まで緑の巨人になすすべなく地面に叩きつけられていた肉の塊──トムキャット──は落ちて砂にまみれたキャップを被り直した。迷彩柄の帽子の上についた、猫の耳をモチーフにした三角の布も心なしか元気がない様に見える。
迷彩柄の横に立つフライトキャップの青年も、苦笑いを浮かべて頬を掻いた。
「ごめん、エアラコメット」
彼は巨人から何をされたというわけではなかった。ただ、彼に捕まっていたトムキャットをなんとか救い出そうと駆け回り、目障りとばかりに足蹴にされ、目を回していたのである。
エアラコメットと呼ばれた少女が文字通り飛んできた時、辺りはまさしく災害現場と変わらなかった。彼女は緑の巨人から肉塊を奪取し、吼えた。ゴー、ホーム、ハルク!

「そもそも貴方達、一体誰に喧嘩を売ったかわかっているの」
エアラコメットは立ち上がった巨人を確認してから、同僚に尋ねた。
ハルク。怒れる緑の巨人。天才的な物理学者、ブルース・バナーの中に生まれたスーパーヒーロー。
「少し、弁解したいんだけど。俺達は、べつに、喧嘩を売ったわけじゃないんだ……」
「喧嘩を売ってないならハルクに濡れた雑巾みたいな扱いされないわよ」
もっともだった。トムキャットは困った様に笑って──といってもマスクとアイウェアの下で表情を変えても全く表層には伝わらないのだが──先程から骨が外れてぶら下がって揺れていた左腕を、きちんとした場所へと嵌め込んだ。
「お互いにお互いをヴィランだと思ってしまって。……アレスなら、彼みたいな子も作るだろうから」
アレス。ギリシャ神話の戦神の名を戴くスーパーヴィランだ。トムキャットやファイアボールが関わる事件の何割かは、彼が裏で糸を引いている。争いの火種を簡単に撒き散らす、ウォー・コーディネーター。
「普通ヒーローは、素晴らしいスーツを纏っているしね」
トムキャットが肩をすくめた。ファイアボールもそれを聞いてまたへらりと笑みをこぼす。エアラコメットも、はあっと息を吐いた。
三人は三人とも、ヒーローらしいスーツを着用してはいない。誰もが市販品の衣服を組み合わせて使用している。エアラコメットでさえ、専用の衣装は持っていなかった。
「そういうのはいいわ。彼らと私達じゃ財力もバックアップも桁違いなんだから。それで、トミー?貴方の筋肉は柔らかくなった?」
「そんなわけない」
「なら、準備して。誤解でも私達はハルクに喧嘩を売ったの。だったら、次はどうなるか……わかるわね」
どういうこと、と言おうとしたトムキャットの顔に、何かの金属がクリーンヒットした。彼は勢いよく頭から瓦礫に叩きつけられる。ファイアボールが悲鳴を上げた。トムキャットはまだ良い。エアラコメットも先程の攻撃なら受けても擦り傷ひとつつかないだろう。だが、自分は異能はあっても身体はただのティーンエイジャーなのである。あれを受けたらひとたまりもない。
弧を描いて持ち主の元へ戻っていく金属の円盤は、誰もが幼い頃に目を輝かせたスーパーヒーローのものである。
「来たわね!」
その後ろにも、見たことのあるヒーロー達が揃っている。ファイアボールは顔を覆った。まさかそんなことが現実に起こるとは思っていないではないか。
「う……アイウェアは無事……良かった……」
瓦礫から起き上がったトムキャットは、やはり飛ばされたらしい帽子を被り直し、今度は顎紐をしっかりとつける。
「……アベンジャーズ?」
そして、目の前のヒーロー達にギョッとしてエアラコメットを見た。
「だから言ったでしょ。誰彼構わず喧嘩を売るなって」
トムキャットはアイウェアの下でぱちぱちと瞬きを繰り返し、アベンジャーズの中に見知った姿をがないことを確認して、バラクラバの上から頭を掻いた。
「スパイディが居ないだけ、良しとするべきかな?」
「そりゃあ僕はニューヨークで活動するヒーローだから、あまり招集には応じられないけど。ニューヨークで暴れたら僕が来るのは当然だよね!どーして君は僕以上に騒ぎを起こすのが得意なの、トミー!?」
「スパイディ」
「ああもう、スーパーヒーローの密度が高くなるってことは、悪いことが起きる前兆よ!」
トムキャットの前に空から降りてきたのは赤と青の衣装を纏ったスーパーヒーロー、スパイダーマンであり、彼はアベンジャーズの一員である。
そして、スパイダーマンとエアラコメットだけが、この場に危険が迫っていることがわかっていた。スパイダーマンはファイアボールとトムキャットをウェブで引っ張り上げ、エアラコメットは未だ足元がおぼつかないハルクの腕を引いて空中へ飛び上がる。
次には、五人が居た場所のちょうど中心で爆発が起こった。対峙していたアベンジャーズは、それぞれに爆風や瓦礫に対応する。

「ハロー、ハロー、スーパーヒーロー!こんなに勢揃いだなんて、僕、すごく感激しちゃうな!あとでサインを貰っても構わないかい?ノーだなんて意地悪なことを言わないで。世界の子供達がガッカリしちゃうじゃない。ところで今投げ込んだ爆弾、どうだった?威力的には少し低いかな?でも安心して欲しいな。それくらいの威力ならセット販売でお安くできちゃうし、もっと威力の高いものはもっと高く売れるからね!でも、デモンストレーションって大事だろう?だからさあ、ヒーロー!この街の至る所を爆破してみようと思うんだけど──どうだろう、楽しそうだよね?」

何かの機械を通して発言される、一方的な声。本当に愉快そうに、時折笑い声を交えながら、彼は声高に宣言する。

Ladies and Gentleman! It is the beginning of a fireworks party!


10/17 09:59


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