×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -


◎ボツしかない人外


結論から行こう。
俺は今行方不明になっている。

なんやかんやあって、施設は燃えた。あんまり思い出したくはない記憶ではあるけれど、この身に刻まれた罪科として何度も思い出す事になるのは確実だから、今は棚に置いておこう。
なにかと物騒な昨今、色々と闇の濃い児童養護施設が燃え、行方不明多数、多数!?とにかくその中に俺が入っているのは間違いなかった。なぜなら今テレビのニュースで女子アナが眉間にちょっとしわを寄せて話しているので。
あの施設には何かと名高い名探偵は居なかったから、誰かの遺体が入れ替わっているだとかいう酷いミステリな展開にはならないだろうとは思うが、この世は奇妙奇天烈摩訶不思議、でっかい宝島なので、事実が小説より奇なことにならないとも限らない。現に俺がこうして、高級マンションの一室、毛足の長い絨毯に埋もれながら、ポッキーを貪りニュースを見ているという、なんとも言えない身分になっているのがなによりの証拠だろう。
テレビの中、上空から燃え尽きた施設が映る。あの場で負った傷は手当こそされたが、医療機関にはかかっていないから治りは悪い。
多くの傷は炎症を起こして、切り傷はいくつか化膿している。体内にも無機物は残ったままで、足の裏もずたずただ。柔らかい絨毯が部屋の隅々にまでしっかりと敷かれているからこそ、這って生活することができている。すぐに開く傷のせいで、綺麗な絨毯はその価値を一気に下げてしまっているけれど。
それでもここで生きているのは、俺をあの地獄からヒョイと拾ってくれた錦鯉のおかげだ。彼は犯罪者には違いないが、その気まぐれで俺の命は失われずに済んだのだ。
ぴんぽん、来客を知らせる音が部屋に響く。

「はーい、留守ですよ」

高級マンションにしては安い音だ。ぴんぽん、と再度インターホンが鳴らされる。きっと明日は、ベッドシーツが新しくなるのだろうな、と予想した。ぴんぽん。三度目の正直、というところか。それ以上インターホンが鳴る事はなかった。

「ピッキングしないのは偉いぞぅ」

這って開けていたベランダに転がり出て、そっと階下を見下ろす。いつもの車が停まっている。あれは警察の車だ。錦鯉の動向を探る過程で、頻繁に訪れるこのマンションに何かあるのだと見張っているのだ。突入されるのも時間の問題かもしれないなと思う。隣の奥さんも訳ありだから、その日に転がり込むのも良いかもしれない。色々面倒臭そうなので。
路駐していたシルバーの車が動き出す。
あれが今回インターホンを押した輩なのだろうか。それからしばらくして、駐車場の出入り口からスポーツカーが出て行く。来訪者はあっちだろうか。せめて自分が来客対応出来たならよかったのに、いや、行方不明なのだから姿を晒すのは良くないのかな。覗き窓ぐらいがベストだろうか。今は足が痛くてドアの前に立てないから、そんなこともできないのだけど。
早く錦鯉帰ってこないかな。テレビでは刑事もののドラマが展開されている。暴力団組員を捕らえるために、街中を走り回る警察官達……。

「……うわ、やだな、これ」

この部屋の男を錦鯉と呼ぶのにはわけがある。
彼の背中には見事な錦鯉が泳いでいるからだ。流水紋、桜吹雪、鯉の滝登り。わかりやすいモチーフだろう。現代日本において、入れ墨というものは一種の職業証明足り得る。その職業は法に触れる事が多く、であるから、公共の場の利用を断られるところも多いのだ。
同じくこの世に生まれ落ちた、刀剣だった彼らを思う。方や警察という法の守り手、方や裏社会の住人だ。俺ですら裏社会に組み込まれていると言っても過言ではない。
警察となった彼が、ヤクザの潜入員とかいう立場だったのなら、晴れて全員真っ黒ということになるのだが、そんなまさか。



04/22 00:27


mae top tugi