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テーマ「推しとの恋」
- ナノ -


◎刀剣×創作「突撃!隣の激ヤバ本丸」


監査。業務の執行や会計、経営などを監督し検査すること、またはする人。
閉鎖空間となる本丸は、高確率で生活環境が悪化するという統計が出ている。故に定期的な監査が入ることは周知のことであり、それ専用の部署が存在した。
人員は、本丸の数に比べて圧倒的に少ない。

我が国の防衛費は国内総生産の1パーセントである。我が国は憲法によって軍隊を持ってはならない為に、このパーセンテージが増える可能性は限りなく低い。隣の国々がどれほどの軍事力を持っていても、である。と、なれば、勿論軍事力の要ともなる火器類は勿論、環境改善のための物資、人件費も増えなければ、それを教育するための費用もまた増えず、就労者数が増えないというのは自明のことと思う。また、防衛費の大半は自衛隊のために使われる。我々歴史修正主義者と戦う方へ回される予算は更に少ないのである。審神者の給料が高いなんていうのは全くのでたらめ、一体誰がそんな根も葉もない噂を流したのか。戦場にに立っているからなんて言葉は通じない。我々は公務員。国家公務員という少々特殊な枠だとしても、市役所職員から刑務官から審神者から、基本給は皆一律なのであった。悲しいかな諸経費を差っ引くと手元にはお小遣い程度にしか残らないのである。審神者達なら本丸があるので多少我々より貯蓄しやすい、ということくらいしか利点がない。
歴史修正主義者は害虫なみの繁殖力を持つというのに国は何をしているのか、2200年代、未だに法整備だってままならない。現行の法では裁き辛すぎる案件だっていくつもあるのだ。刀剣男士が国から審神者に貸与される物品扱いである事などは、そのことを説明する上でもわかりやすい事例であろう。

ブラック企業というものはご存知だろうか。未だになくならない日本の膿である。改善すべく新法を成立させても、人間というのは抜け道を探し、様々に隠遁し隠蔽を行い、違法労働を継続させる。隙間があれば滴る水のようなもの。穴を塞げど、新しく穴が何処かに開くのだ。それらに纏わる過労死や、日本社会の集団意識と就業率に起因する自殺率は何世紀前から指摘されているのだろう、我が国はいまだ不名誉な自殺大国というレッテルを剥がせないでいる。
何が言いたいのかというと、本丸のそういうブラック企業化を見極めるのが私のお仕事なのであった。
もうお分りいただけたかと思う。
私は防衛省神祇庁所属のしがない監理部監査課の調査員である。最近ようやく一人前になれそう、というところ。そこに舞い込んだとある本丸への抜き打ち監査。先輩がいなくなってからの監査は今回で二度目となるが、仕事内容だけならまだ問題はなかった。ちょっと不安で緊張もあるが、しっかりとこなそうという意気込みも出ようというもの。
問題は訪れる本丸とその審神者にある。

少しだけ別の話をしよう。監査課に配属された新人が、最初に監査に行くのはなんの問題もないと判断された優良な本丸だ。教育係となった先輩の後について、所謂実地研修を受ける。二度、三度と本丸を回り、段々と問題のレベルを上げて行くのだ。勿論、書類から判断するために多少の問題のレベル差はあるが、それにしても例えば審神者のクレームが多いとか、ちょっと成績が芳しくないとか、話が長すぎて仕事に支障が出そうだとか、そういう差くらいである。それにも慣れてくれば一人で本丸を回ることになる。時折対処できない本丸に当たることもあるが、そこは早々に先輩や上司などのベテランに交代していい。
本丸は審神者の心象がダイレクトに反映される。門をくぐれば大抵、己が対処可能か否かがわかってしまうのである。優良な本丸を基準にして、その差異で我々は判断するのだ。
審神者や特殊な部署以外の人間に、ほぼ霊力はない。なぜなら我々はただの一般国民。普通に就職活動をし、国家公務員試験を受けた結果、ここに配属されたというだけなのである。
それでは目の前の問題に戻ろう。
今回向かう本丸の審神者には本業がある。兼業審神者、というやつである。審神者も特別職の国家公務員の括りではあるが、少し例外的な立ち位置でもある。神祇庁に関しては例外も多く、審神者や技術官に兼業が許されているのはその一つだ。審神者になれる人間が限られているから、というのが大きな理由である。才能がなければ審神者にはなれない。
ただ、兼業と言っても職業が一般的なものであれば私はこんなに困らなかった。この審神者のそこが問題なのである。

退魔師。
総合的に魔を祓い、脅威を除く事を主とした仕事を行う人間の事だ。彼らは審神者と違い、その霊力、魔力その他諸々を攻撃手段として使用することができる。因みに審神者は守る事に特化した人間だ。つまり、この退魔師の審神者は、攻撃防御両刀使いという事になる。それだけならまだ、まだ良かった。
噂があるのだ。そこの審神者、ブラック本丸運営をしている、暴力的な男であると。
こんな新人にそんなやばい案件を回すなんて、と思っても、上司から言われればイエスとしか答えられないのが下っ端である。本気で対処できなければ交代してもらうことも可能だが、なんにせよ訪問せねば交代もできない。ままならない。
だが、時間は停滞する事を知らない。時間は迫るばかりである。本丸の座標をゲートに入力までした。エンターキーを押す。ゲート起動。深呼吸。腕時計で時間を確認。17時50分。超過勤務、ではない。我々の仕事は労働時間が固定されてはいないのだ。でもしっかりと労働基準法は守っているので大丈夫。
水膜のように向こうの景色が映る。ええい、ままよ!
私はゲートに飛び込んだ。




03/06 20:00


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