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◎刀剣×D/C その3


お腹の底から震える鼓動、世界を揺らすは黒く輝く鉄の馬。走る興奮収まらず、馬は未だに嘶いて、砂の埃を蹴り上げる。闇より出でし漆黒の騎手は、手慣れた様子で馬を撫で、魔法のように静寂が這う。炭素の糸で編まれた兜は、次の舞台のために積荷に紛れ、陽光の下、出でたるは彼方より来たりし神の落とし子。
その後ろから華麗に着地。加羅が俺を送り届ける前に寄らねばならないという銀行に来た。米花町の駅前だ。あれ、さっき誰かが事故ってみっちゃん派遣されてなかった?忘れた。みっちゃんいるのって郵便局だっけ?ヴ、と加羅の尻が揺れた。バイブの振動だ。いやそんなえっちなやつじゃない。大丈夫、俺わかってるから。加羅のAVの趣味もな。iPhoneだ。少し前の世代のやつ。加羅は携帯電話を2台持っている。普段用と仕事用ってやつだ。仕事用は本業の方。本業なんだっけ?加羅って仕事なんだったっけ、あれ、まだ大学生だったような気もする。まあ、仕事用なのだ。で、今存在を主張してるのは仕事用のやつ。普段用のiPhoneはクリアカバーがしてあって、裏面のリンゴに蜘蛛男がぶら下がったデザインのやつだ。カッコいいもんな。わかるぞう。
チ、なんて舌打ちしながら電話に出た。

「何の用だ、ベレッタ」

べれった。なんだったかな。鶴さんに教えてもらった。お酒を別のお酒で混ぜたお酒の名前だ。そう、白ワインのカクテル、思い出した!銃の名前にもベレッタって言うのがあるから、面白いだろう、俺のコードネームだぜ、なんて教えてくれたのだ。そう言うの教えていいのって聞いたら、まあコードネームだから大丈夫だろう、なんてケラケラ笑っていた。ちなみに加羅のコードネームはスタウトである。黒ビールの定番の名称なのだ。黒と白で似合いだろう、ってやっぱり笑って俺にナポリタンスパゲッティを作ってくれたのだ。あれ美味かったなー。鶴さんも加羅もみっちゃんも料理が上手いんだ。みっちゃんは家の環境とかもあって今全然してないみたいだけど。出来合いを食べてるって言ってたな。朝食だけは頑張って作ってるんだっけ。モーニングってやつ。トーストとコーヒー、ベーコンとポテトサラダ、フライドエッグ、だっけ?うーん、みっちゃんやっぱり誰かと暮らした方がいいよ。ここに加羅もいるし、鶴さんは何やってんのかわかんないけど不動産いっぱい持ってるらしいし。今度会ったらそれとなく言っておこうかな。
で、加羅は仕事上コードネームで呼び合わなきゃいけない電話で鶴さんと会話している。酒の名前ばっかり出てくる。もしかしてこれみんな人の名前かな。人間も難儀だなー、俺も元々人間だけど。刀の生を経たせいでついつい人外の思考になっちゃうことがある。これがなかなか直んないんだよな。それで養子縁組無しになったこともある。アー、そんなかっこ悪い記憶は消去だ。でもやっぱり、こうやって何個も名前を使い分けるのは面倒そうだ。刀の頃はそんなことなかったのに。いや、俺もいっぱいいたし、加羅もみっちゃんも鶴さんも数え切れないくらい沢山いて、見分け付かなかったもんな、演練。これが俺のところのみっちゃん!て思って付いて行ったら違うみっちゃんだったことあるしな。迷子放送で主を呼び出したことは謝るぜ。

「わかった。話は終わりか?……やめろ……ハァ、わかった」
「終わったか?」
「この後人と会う事になった。ここから一人で帰れるか」
「ああ、もちろん!あ、そうだ……えっと、スタウト」
「……なんだ」
「お菓子。疲れてるだろ」

持たされているお菓子だ。これはチョコレート味のスナック菓子。小袋に分けられているから持ち運びはもちろん、分け合うにも便利なのだ。これもこれも、と加羅の革ジャンのポケットに詰め込んでいく。加羅と外出する時、俺は加羅を加羅と呼んではいけない。鶴さんの時もそうだ。呼んでいいのは、2人の家の中か、みっちゃんとの会話の時だけ。鶴さんも加羅も危ない仕事をしているのだ。だからコードネームが必要で。ああ、なんだか審神者に似ている、なんて言ったことがある。加羅も鶴さんも、今生の審神者、なのだ。
俺には2人に渡すお守りを買ってやれない。2人も人で、折れてしまうと、お守りでも守れないのを知っている。死んでしまう。俺が2回、死んだように。それで、まあ、若干照れくさいながら2人のコードネームを呼ばなきゃならないんだけど慣れないわけだ。だってベレッタとスタウトだ。鶴さん、と呼ばずにベレッタと呼び、加羅と呼ばずにスタウトと呼ばなければならないとは。で、鶴さんも加羅も俺やみっちゃんを巻き込むまいとなるだけ外では名前を呼ばないようにしてくれる。仕事仲間の前で話題にあげる時は、俺を雛とかみっちゃんをハスキー、とか呼ぶらしい。知らんけど。いいぜ、普通に呼んでくれても。そうは言ったけど、どう処理したのかわからない。まあ、いつかわかるだろう。
パンパンになったポケットに満足して、じゃーな、また遊びに行く、と別れた。いやーしかし、加羅のバイクは最高だった。あのエンジン音、流石だぜ。ヒューッ!カッコいい。因みにみっちゃんは軽自動車なんだけど、いつかオープンカーを買うんだって言ってた。めっちゃ似合うってめちゃくちゃ持ち上げておいたし、実際似合う。今の軽から出てくるみっちゃんもサイコーなんだけどさ!あんな可愛い車からカッコいい男が出て来んだぜ?女の子もギャップでキュンキュンするだろ?俺はするね。うーん、俺も何かかっこいい乗り物に乗ろうかなー。何もないけど。金すらもな。さー、帰ろう帰ろう。薩摩揚げが待ってる。

「ねえ、そこのお兄さん!」
「……俺?」

辺りを見回して、たくさんのお兄さんが忙しなくあっちこっち、そりゃあそうだ、駅前だもの。そこで足を止めたのは俺だけ。だから辺りを見回して、その声の主を探す。

「そう、そこのお兄さんだよ!」

走ってくるのは見知らぬ子供だ。大きな眼鏡に蝶ネクタイの、多分いいところのお坊ちゃん。おいおい、保護者はどこだよ?こんな子こんな米花町に1人で放り出したら誘拐待った無しだぞ。犯罪率日本一、ミステリ小説の縮図こと我が大都市東京である。
因みに俺の服は内番着だ。白いジャージに水色のシャツ。羽飾りも忘れない。身嗜みは良い男の最低条件だからな。

「ボク、江戸川コナン!」
「お、良いねえ。やっぱ日の本の男児は元気がなくっちゃな!俺は太鼓鐘貞宗!伊達忠宗様が使ってた刀、と、お、なじ名前なんだぜ!」

あっっっっっぶねえ!つい張り切って名乗ろうとしちまった!俺はもう刀剣男士じゃないんだよな!2番目と同じ間違いをするところだった!2番目の時も前世が女だったから、結構色々やらかしたりやらかしそうになったりしたんだよなぁ。今生もなんかやらかしそう。いや、もうやってんだった。養子縁組できてねーわ。へへへ。ちょっと首を傾げられた。だよなあ!刀のこと言われてもなあって感じだろ。あ、それとも最後の方の取り繕い方悪かったか。いやあ、やっぱ坊ちゃんだけあって結構頭も良いんだろうな。良いなー、金持ちってのは。血筋だぜ、血筋。

「伊達忠宗って、陸奥仙台藩の第2代藩主の?」
「おっ、忠宗様を知ってんのか!いやー、嬉しいな!」

やっぱ教養あるな〜!流石だぜ!陸奥仙台藩第2代って言ってくれるところ、痺れるねえ!政宗様の息子って言わないところ、最高だぜ、坊主!
いやあ、やっぱ日の本守って正解だな。正解だ。こんな素晴らしい民が生きてんだから。それにしても、なんだ、可愛い顔してんなぁ……保護者どこなんだろ。こんなの放置してたら誘拐されちまうぞ。マジで。辺りを見回しても、それらしい人間は見当たらない。もしかして、もしかするのか?

「ところでどうしたんだよ、迷子か?」
「えっ、あっ、う、うん!ボク、蘭姉ちゃんとはぐれちゃって、お兄さんが一番年が近そうだったから、話しかけやすそうで……」
「そうか、やっぱり!そうだと思ったぜ、じゃなきゃ俺に声なんてかけてこねーよな。OK、兄ちゃんに任せな!大船に乗ったつもりでいてくれて構わねーぜ!」

それじゃ、まずは駅前の交番だな。よーし、お兄ちゃん張り切っちゃうぜ!


03/01 23:51


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