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◎蟲師


草木の羽織りに身を包み、足元では季節の植物が目まぐるしくその生を繰り返す。芽を出した草は見る間に花を咲かせ、枯れる前に光りとなって消えていった。かのひとの身体からは様々な草花が生え、髪には蔦を絡ませて編み込んでいる。
「様になってきたろう?」
初めて会った時と同じく、この山の主はからりと笑って、横たわる俺の頭を撫でた。着物の隙間から覗く腕には、苔が群生しているように見える。
「春先に来るからそうなる。食うには困らんがね」
そこそこの手入れしかしていないのだろう、あまり綺麗とは言い難い山小屋、中央の囲炉裏の火に炙られる鍋からは美味そうな匂いと湯気が出ていた。火に照らされた山の主は、男の様に見えるが、女の様にも見える。声もそうだ。主であるからなのか、元からなのか、男声とも女声とも取れた。一度尋ねたことがあるが、どちらでもいい、どちらに見えるかと質問を返されてしまい、答えに窮した覚えがある。
「起きられるか。無理はしなくていい」
主の言葉で、ゆっくりと体を起こせば、何日眠っていたのかと思うほどに体の節々がぎしぎしと痛む。
「うちのが迷惑をかけている。……山菜の粥だが、食べるかね」
「……ああ」
そもそもこれは全て俺のためのものだ。助けて貰っている上に、更なる好意を無碍にするのは居心地が悪い。
「蟲のせい、なんだな」
「ああ、特にこれといって害は……いや、お前には多大な迷惑をかけているな。この間来た若い蟲師も拘ってな。生態を観察ついでに名を付けて行ったんだったか。名を確か……山連れ」
「山連れ……」
「山を子を負ぶさって登った後の様だ、と言っていた。故に山連れだ。山頂に行っても払えんが。何、数日栄養過多に過ごしていれば出て行く。しっかり食べるといい」
つまりは蟲の分の栄養を確保しろということだ。成る程、理解できた。いわば寄生虫の様なものであるということか。この筋肉痛が全身に来ている感覚は、面倒だが。
「主よ……感謝する」
「構わん。お前達がたまに顔を見せてくれるだけで助かっている。何せほら、元人間なものだから」
人恋しくなる時がある。
主はやはり笑っている。


09/28 12:56


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