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◎FF15-王剣くん?


「陛下!」

魔法障壁に守られたルシス王国の首都インソムニア。現在ではニフルハイム帝国との大きな衝突はなく、インソムニア内では平穏な時間が流れている。国民の多くは、王家の存在を知りながらもそれを感じることはほぼ無いに等しい。故に彼らは王族の姿を芸能人かの如く、電子の世界と同じにしている。勿論その事を知るマスメディアは彼らを金の成る木と捉える。加護は長く与えられる事で享受する事が当然の事となり、それらへの感謝、畏敬の念は時と共に薄れ行く。国民達の王への忠誠心は比例する。
国王の施設訪問。場所は世界でも珍しいとされる、植物の繁殖が成功したという植物園だった。
植物園はインソムニア郊外にある。広く、青空の下に広がる花園に薔薇園、いくつもの大きなガラスの温室が建ち並び、また特殊な光を当てるための暗室も存在した。目的の植物は現在、植物園の目玉として中央広場に安置されており、報道機関が入り乱れる空間では、確かに警備が不充分であった。
国王へ、一人の男が小さなナイフを突き出す。
移民を受け入れ、王の剣として登用したレギス国王へ、ニフルハイム帝国の手が伸びるのは必然であり、起こるべくして起こった事とも言える。両国間の戦争で、故郷を喪った人々は多い。ルシス王国の救済の手を掴む者もいれば、逃れる者もいる。ニフルハイム帝国へ逃れる者もいれば、甘言に乗せられる者も居るのである。
今日の天気は快晴、鮮やかな青を泳ぐ綿飴のような雲と、輝く太陽の陽射しは少しばかり強く感じられた。
青白い光を浴び、弾いて煌めく鋼鉄の刃は、国王の胸を目掛けて飛んで行く。黒い布を引き裂き、皮膚を破り、筋と血管を断ち切って、刃はやっと動きを止めた。

「――な、」

男は手の感触に歓喜の表情を浮かべ、痛みに耐える男を見るべく顔を上げ、その場で石のように硬直する。目の前の男は、己の想像した人物ではなかった。国王や親衛隊、傭兵部隊に至るまで黒い衣服である為に、その男は気付かなかったのだ。
王と己の間に、誰かが割り入った事に。

「お前、」

国王への道を塞ぐ黒い影。背丈は己よりも幾分低く感じる。黒いフードを目深に被り、影の中にあるその顔は見えない。遠巻きに見る事のあった王の剣の様に、顔に面のようなものは付いていないというのに。
影の中からするりと出た何かが己の手を這う。ぎしりと体内から骨の軋む音が響く。
影が近付き、ばきりと濁った耳が音を拾う。体内から、そして体外から。ナイフを持っていたはずの腕が重力に従って落ちる。衝撃は肩に伝わり、脳がそれを漸く理解し、瞬間、痛みが腕を襲った。

「ぎ、ああああっ!」

痛みを如何にかして耐えようと、無事な腕が痛む腕に向かう途中、それも影に捕らえられる。今度は目の前で、ぼきり、新しく関節が作られるのを見る。

「うあっ、あ、ああああああああ!」

視界が滲み、ぼやけてぶれる。黒を捉えていたはずの視線は、赤煉瓦の敷かれた地面に向いた。だが、視界の端の影は消えない。
滲んでは澄むを繰り返す視界が激しく揺れ、影の中から伸びる何かが、首に巻きつく。痛みに濡れる喉からの音が遮られた。

「捧げよ」

静かに落とされた音は美しく珠を弾いた。
目を見開く。血が堰き止められ、溜まり、膨らみ、逃げ場を求めて喘ぐ。暑い。視界がちかちかと瞬き、目が飛び出るのを感じ、唾液が口内に溜まっていく。
ルシス国王、レギス。我が故郷を奪った男。それに手が届くはずだったのに、あの憎い

×××

どさりと地面に落とされた男を、すかさずクレイラスが脈を取る。ふっと息を吐き、駆け寄るコルと視線を交わした。コルは小さく頷き、男を抱え上げる。

「陛下、お怪我は」
「無い。……彼は?」

クレイラスは首を縦に振るが、報道機関から見えない手を動かし、男の命が無い事を伝えた。それを見てレギスはふうと息を吐く。

「シェイド、やり過ぎだ」

声を掛けたところで、ふとその影が思った以上に小さい事に気付いた。シェイドと呼んだ男は、知っている限りでは己より少しばかり低い背丈のはずなのだ。

「……まさか」

ほんの少しの時間の事、激しい動きをする黒い塊。てっきりいつも影に隠れ潜む、己の護衛であるとばかり思っていた。先入観から気が付かなかったのだ。護衛と同じような衣服に身を包み、同じような動きをする小さな影。

「……シェイドの子か!?」

影はそれに答えず周囲を見回し、王と側近以外の全てが地に伏しているのを確認すると、王へ丁寧に頭を下げた。レギスははっとして待て、と焦った声を上げる。

「いやいやいや、待て、待ちなさい。シェイドは如何した? いや違う、怪我をしているだろう、この場を辞そうとするんじゃない、ああコル! この子を見てくれ。取り敢えず場所を移そう」

レギスは取り敢えずとスタッフルームへと急いだ。小さな影は、大人しくコルの腕に抱かれている。
スタッフルームのドアを開く。気付き慌てて対応しようとする植物園のスタッフに、薬の手配と広場の惨状の収拾を頼む。女性がこの部屋の備え付けであろう小さな救急箱を手に駆け寄り、レギスが受け取ろうとするが、クレイラスが静止して箱を攫った。中身をサッと改め、コルの腕に収まる影を睨む。
それを見て、レギスはスタッフに人払いも頼む事にしたのだった。
部屋と廊下に誰の気配もないのを確認し、ドアを閉める。

「なんて事をしてくれた!」

フードを被ったままの小さな影は、どこ吹く風だ。コルの腕を離れ、パイプ椅子に座らされているが、影の中の表情は何一つ見えない。

「シェイドはどこだ」

影は何も答えない。

「答えろ!」

影の中で、赤いものが煌めいた気がした。
レギスが憤るクレイラスを制し、影を見る。
息子と同年代だろうか。

「……君のおかげで助かった。名を聞いても良いかね」

小さな影はふるりとその頭を振る。
あ、と声を漏らしたのは誰だったか。
いつか、やはり命を救われシェイドに名を訪ねた時、言われた言葉が脳に渦巻いた。

我等に名は無く、家は無く、国は無い。
我等の命に価値は無く、我等の情に誇りはない。
故に我々は遍く全てに消えるのだ。
我々は炎、雨、力。天下に散り、忍び入る者。
知覚せよ。全てのものに闇宿り、影存す。

だからこそ彼にシェイド・スキアーの名を与え、兵として登用したのである。
元々名を持たない男だ。目の前の子が彼が育てたものであるなら、名を持たないのは道理とも言えた。子は椅子から降り、所作美しく礼をする。
そしてふっと子の姿が空気に解けた。

×××

「シェイド!」

城内に男の声が響く。だが、誰もそれに応える者はいない。憤る男の後方で、レギス王は息を吐いた。シェイド、と渦中の厄介な人物の名をこぼす。

「お呼びでしょうか」
「うおっ!」

先ほどまで何もなかった王の前方に、全身黒尽くめの男は居た。目深に被ったフードの中は、濃い影となって何も伺い知ることはできない。

「シェイド、今日寄越したあの子は?」
「ああ、あれですか。お役に立ちましたか? 本日は植物園に向かわれるとのことでしたので」
「あの子は一体誰なんだ」
「……我々の一人です。我が王」


忍者だ(アサシンだー!)


09/09 03:35


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