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◎FF15-王剣くん


「ノクティス様、痛むところは御座いませんか」
目の前の男は膝をつき此方を覗いた。フードの陰に隠れて、その表情は読み取れない。
彼の背後には数匹のキュウキが転がっており、全てが命を落としていた。こいつの怒りを買ったから。
「問題ねーよ」
「対処が遅れました。申し訳御座いません」
「いーって。お前は大丈夫なのかよ」
斬り込み隊長は俺の仕事だ。油断した。近くにいたキュウキに隙を突かれたのだ。
そいつがいつものように爪を振り、こいつがシフトで庇いに来た。そういう話。
「はい。支障なく」
あ、と思う。これは俺に嘘はつかない。支障はない、ということは怪我は負ったという事だ。
キャンプや宿で薬の対応ができるときに、怪我の自己申告をさせるようにしているから、今日はそれが有るのだと知らされたようなものだ。
「……ご心配には及びません……過失に対しての罰はいつでもお言付けを」
「しねーよ! つかそんな過失いつ出来たよ」
「ノクティス様を危険に晒しました。……重ねてお詫びを」
「しなくて良いって。怪我なんてしてねーし、何もなく終わったみてーだし」
シフトして戦うが故に、仲間と分断されてしまう事は良くあった。今も、丘の向こうで友人達が手を振っている。
「ノクティス様が仰るのであれば……いえ、ですが、矢張り」
「俺がいいって言ってんのに。わーった、あれだ、次、お前が俺に楽させてくれれば良いから。な、それが罰でいいだろ」
「……承知致しました」
まだ納得していないような空気だったが、それで目の前の男は引き下がる。俺の言うことは奴にとって絶対だった。この旅で、あの友人達とは一線を画す存在。浮いた存在ではあるけど、こいつも俺にとってみれば、大事な存在なのである。言わないけども。
××××××××××
確かに俺は次に楽をさせてくれればと言ったのだけど。
影に潜む俺の護衛は、なんだかよくわからないくらいにぼろぼろになって目の前に立っている。
戦闘時は敵ばかりに気を取られ、戦闘が終わればすぐに居なくなる。移動だって俺達とは別なのだ。全く変化に気付かなかった。
「限度ってもんがあるだろ!」
俺だったら絶対耐えられなさそうな傷を負っているのに、目の前の男は何事もないように、いつも通りに立っている。大丈夫です、と報告する奴の声も、どこも変わりなく、本当にいつも通りだった。
その事実にゾッとする。
今までも隠していた傷があったかもしれない。これからも自分はこいつの変化に気付けないかもしれない。
「ノクト」
プロンプトから差し出されたエリクサーにはっとして、改めて目の前の男を見た。標の端に寄って立たせているけれど、その足元は血の池だ。それが標から滴り落ちて行くのが目で追える。
「……そこに居ろよ」
命令しなきゃこいつは薬を受け取らない。命令でなければこの傷のことすら知らせなかった。こいつはたぶん、短い命の俺よりも、ずっと先に、死ぬんだろう。
「傷」
「はい」
あまりこいつは服を脱ぎたがらない。顔を見られるのを嫌がるし、そもそも名前を呼ばれることも、他人の目に映ることもなるべくならしたくないと言っていた。暗殺者の身分で烏滸がましい、奴隷のように扱って欲しい。こいつは自分を常に卑下する。昔から知っているはずなのに、それこそ幼馴染みと称してもいいほどであるのに、どうしてそう育ったのか、俺には全くわからない。
渋々と露出度の低い服を脱ぎ始め、漸く顔が見える。いつもは目深に被ったフードの影で、その顔は全く見えないから。
傾く太陽の下、俺のと違って反射する光があっても尚黒い髪、いつか見たよりも髪が長いけれど、毛先が揃っていない。適当に切っているな、と思う。夕陽の色が混じる両目はゴールド、ウルフアイだ。首から下、鍛え上げられた筋肉はしなやかで、グラディオのような魅せるためにもある付き方ではない。
しかし目を引くのはやはりその身体に刻まれた数々の傷痕だ。中には致命傷になったのではないかと思しき傷跡も見えた。そして、未だ赤く血が滲む背や腕の傷たち。
受け取ったエリクサーを使う。いつだって冷静にしているのに、この時ばかりは少し居心地が悪そうだった。
青い光が怪我の付近を漂い、それが瞬時に治していく。薬で治した怪我の跡は残らない。身体中に刻まれた傷痕は、そういう処置をしてこなかった証だ。
「……ネル、お前はなんで」
そんなに簡単に命を投げ出すのか。
聞けるわけがない。口からその言葉が出てこない。
それに、そんなことを聞きたいわけでも、言いたいわけでもない。目の前の男が死んでしまうのを見るのが嫌なのだ。
死なないでくれ。尋ねる言葉も出ないのに、さらに難しいその言葉を、俺が言えるはずもなかった。
「我々はそういう生き物ですから」
心を読んだように答えて、こいつは微笑む。ああ、こういう顔をするのだと改めて思う。
「我々の代わりはいくらでも。ですからノクティス様。どうか我々のために悩まないで下さい。我々に名はなく、命に価値も無いのです」
お前の代わりは居ない。その言葉が出てこない。
「ネル、」
「はい」
その男はゆっくりと膝をついて、こちらを見上げて微笑んだ。しばらく、そのままの時間を過ごした。


09/06 01:33


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