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- ナノ -


◎有頂天


「あれ、矢三郎さん」
「やあ」
こちらを見て笑む彼の周りには、いつもの通りに猫が数匹丸くなっている。膝の上の猫や、腰の隣や足元、彼はいつだって何かしらの動物に囲まれている。その吸引率は他の追随を許さず、例に漏れず我々狸や天狗なんかも引き寄せていることがあるのだ。今回はまだ平和な方で、ひざ上の猫が例えば他の狸だったりすると、熾烈な縄張り争いの様になってしまう。我々は狸、猫や犬といったほかの種ならまだしも、他の狸にお気に入りは奪われたくないのだ。
彼の近くに寄れば、猫たちが一斉に顔を上げる。長いこと占領していたのだろうか。自分たちは満足しているとばかりに尻尾を一振り、くわっと大きなあくびを一つ、ぐうっとそのしなやかな体を伸ばして、膝の上の猫がすとっと地面におりる。もうええん、と彼が名残惜しそうにするものの、猫は彼の脚にするっと体を押し付け一声みゃあと鳴き、また来ると言わんばかりに優雅に歩いていく。他の猫たちもそれに続き、彼の周りには己一人だけとなった。
「矢三郎さんは化け猫の親玉なんちゃうの」
「まさか」
「まあ、矢三郎さんは化け猫っていうより、狸の方が似合うしな」
「おや、ばれてしまいましたか」
「いややわ、矢三郎さんに化かされるんは」

ウーン



06/18 15:52


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