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◎PP


「お疲れ様です、刑事課一係のみなさん!刑事課4係、通称特殊事件及び凶悪犯罪対策課、略して特課所属小鳥遊日和(たかなし ひより)監視官であります!こっちは同じく4係の一樹(にのまえ いつき)執行官と鹿目(かなめ)トウゴ分析官。もう一人、自由に歩けないのが難点だけど、現場での主戦力、伯耆(ほうき)ケイタ特殊執行官がいます!今回の合同捜査、よろしくお願いしまーす!」
朗らかに入ってきたのは明るい茶髪を後頭部で結い上げた、如何にも愛らしい女性であった。続いて入って来たのは男らしさを醸してはいるが、物静かな印象の黒いスーツの男、最後に入ってドアをきっちりと締めたのが、ワイシャツの袖を七分丈に折り、アンダーシャツを見せるように着こなす、スポーツマンのような爽やかな顔立ちの青年だった。
4係、特殊執行官。新人とはいえ漸く業務も滞りなく行えるようになってきた時期、そんなあたかも身近で頻繁に使いそうな言葉、知っていても良いだろうに、全く言葉が脳内検索でヒットしない。常守朱は己が失態を恥ずように一度視線を落とすが、ぶんと頭を振って隣の部下であり先輩に声をかける。
「あの、狡噛さん……4係って」
「ああ、常守はまだ知らないか。あまり表立って出てくるようなところじゃないからな。さっきも聞いただろうが、通称特課……特殊事件及び凶悪犯罪対策課、と言われていてな」
「俺達でも手に余るようなヤッバ〜い事件を扱う……朱ちゃん以上の鉄メンタル集団ってこと!まっ、特殊執行官ってのにさえ触らなければ良いんだから、簡単っしょ?」
「その、特殊執行官って」
「犯罪者だ」
会話を耳にしていたのだろう。宜野座が吐き捨てるように答えた。それを聞いてムッとした表情を作るのは、やはり聞こえていたのだろう4係の男性陣だ。反対に小鳥遊はそうなんですよ、とあっさり認め、からりと笑顔を見せる。
「まあ、その話はまた後ほど。どうせ実物を見ることになるんですから。さっ、そんなことより捜査会議です!ほらほら鹿目くん、1係の皆さんに事のあらましを!」


仮設本部で息を吐く。あまり良い気分ではなかった。色相も少し濁っているかもしれない。鹿目から説明のなされた事件は文字、図解と言葉のみであったが、それだけでも気分は落ち込んでいる。あの会議に画像が追加されていたら一体どうなっていただろう。それとなく小鳥遊に尋ねてみたが、矢張りあの明るい笑顔で吐きたいですか?と言われてしまった。それほどに酷い状況だったのだ。そして今、鹿目が予測した事件が発生し、その対応に駆り出されている。
「さてさてさ〜て?どんな感じですか?」
小鳥遊が明るく仮設本部に置いてあったパイプ椅子を引いて座る。監視官デバイスを弄り、予想通りといった表現を見せた。
「じゃあ、先に常守さん。捜査会議前の話の続きをしましょうか」
にこりとこちらを見る彼女は、この現場にはあまりにも場違いだった。

4係は刑事課の監視官、執行官の色相を守るためにある盾だ。公安局刑事課にとって、あまりにも手に余る凶悪な事件や、高い値のサイコハザードが起こった場合、対処に当たった者は確実に色相を濁らせることになる。数少ない公安局職員だ。色相が濁りきり、潜在犯となっては目も当てられない。そんな消耗を避けるために設立されたのが刑事課4係。消耗を前提とした人材派遣。それでも配属されるのは色相の濁りにくい人間に限られている。それ故に人数は少ない。そして更なる使い潰しの駒として、例外の執行官が一枠設けられているのだ。これこそが特殊執行官。潜在犯ではない、本物の犯罪者。清掃員には最適で、後始末も楽な駒。ぶら下げる餌だって、一般的な執行官ほど多くなくていい。
効率的でしょ。小鳥遊はからからと笑う。
「小鳥遊。周囲は完全に封鎖した。周囲の人々への対処も完了している。全く、俺達はお前達4係のお守役じゃないんだぞ」
「まあまあ、その分私達、いや正確には部下が?頑張るからさ、大目に見てよ。あの建物の中、入りたくないでしょ」
シビュラの判断に不満を持つ人々が、シビュラを相手に、巧妙に隠れ、綿密に準備してきた計画。事の発端は猟奇的殺人だ。見よ、シビュラの目は俺達を見ることができなかった。そういう声明を叩きつけた、はずだった。けれど、どれだけやっても社会は全く変わってくれない。どころか自分の色相はどんどん濁り、黒ずんでいく。ストレスケアのサプリを飲んでも効いてこない。焦ってことを仕損じた彼らは、一般人を大勢巻き込み、立て篭もりをはかったのだ。その建物が目の前にある。5回建てのドラッグストア。雑貨、日用品みたいな、ホロではどうにも仕切れない、使い捨てにするには少し厄介なものを取り揃えてある。勿論ネット販売だってやっているけれど、対面でなければ売られないものだってある。
そんな場所を陣取った彼らの要求は一つ。納得できなかったシビュラの判定を、納得するものに変えてもらうことだ。
そんなことできるわけがない。故に派遣されたのが公安局刑事課1係であり、最終手段の4係である。
一仕事終えた執行官達が戻ってくる。入れ替わりに小鳥遊が立ち上がった。彼女はこちらを向く。
「来たよ、常守さん」
彼女の視線を辿り、此方へ走ってくる護送車を視界に収めた。物々しい空気を感じる。いつも見ている護送車のはずだ。いや、少し違う。執行官達が乗る護送車のように、黒いホロを纏ってはいるけれど。
「現金輸送車みたいでしょ」
現金輸送車。知識にない言葉だった。大昔の車のことだよと彼女は言う。
護送車は次第に速度を落とし、仮設本部の脇に停車する。運転席からひらりと降りて来たのは一だった。既に起動しているドミネーターを手にしている。彼は小鳥遊と二、三言葉を交わし、護送車のドアの近くに陣取って構える。小鳥遊は笑顔のままで護送車に近付き、バックドアのパネルを操作する。
「小鳥遊日和、監視官権限により特殊執行官、伯耆ケイタの臨場を許可」
申請は既に通してある、このやり取りは護送車のバックドアを開けるためのもの。幾重にも重ねられた安全管理、あまりにも厳重な檻は、中のものの獰猛さばかりが際立って感じられる。護送車の機械音声が了承の意を宣言し、鈍い駆動音と共にバックドアが開かれる。ぬるりと現れ出たのは鎖に繋がれた、若い男であった。
短く切り揃えられた黒髪、薄い灰色の瞳。半袖のポロシャツの左胸には盾型のエンブレム、右胸にポケット。襟とポケット、袖には水色と山吹色のラインが引かれている。ズボンはしっかりと折り目の入った紺の綿パンツ。爽やかな印象の服装が、より幼さを引き立たせていた。彼がこちらを向き、がしゃん、激しく鎖を鳴らす。護送車の内部と繋がる鎖を力任せに引き抜こうとするかのように、彼は全身で金属音を響かせ、ううと怒鳴るように唸った。口にはしっかりと轡がかまされていて、言葉を発することもできないのだ。
「狡噛、お前は向こうだ。そこに立たれてはいつまで経っても奴の鎖を解けん」
「そうだったな、悪かったよ」
狡噛が視界に入らなくなると、少年は大人しくなった。全く。小鳥遊はため息をつく。
「いくらあの人が憎いからって。だめですよ、伯耆くん。心の底に秘めておかないと。狡噛慎也は猛犬です。鼻がききます。野生の勘もバッチリです。だから、殺すためにも隙を伺わないといけません。せめて表面は取り繕わないと。そうでしょ?」
常守はぎょっとして彼女らを凝視する。その言葉は危険思想とみなされるはずだ。だが、この場にいる皆が何事もなかったかのように動いている。
そこで、今朝の縢の言葉を思い出す。鉄メンタル。ああ、なるほど。彼女は彼を宥めるためについた嘘くらいで色相は揺らがないのだろう。
少年が頷いたのを見て満足げに微笑み、小鳥遊は腕のデバイスを弄る。かしゃん、いとも容易く彼の拘束が解かれた。
「貴方にドミネーターは与えられません、これから先起こる」
「stop! Have heard enough. 失敗しなきゃいいんでしょ」
規則なの、と彼女は叫んだ。だが、少年は聞く耳を持たない。
「さあて、お仕事、お仕事」


ウーム……


10/21 16:00


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